ナショナルセンター2機関のバイオバンクが国内初の国際規格の認定を受けました
発表のポイント
- 医学研究において世界的にバイオバンクの標準化が拡がる中、日本にも国際規格に基づく認定バイオバンクが誕生。
- 認定バイオバンクの誕生により、我が国のヒト試料・情報の品質向上が進むことが期待される。
概要
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(東京都、略称:NCNP)バイオバンクならびに国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(愛知県、略称:NCGG)バイオバンクは、公益財団法人日本適合性認定協会(東京都、略称:JAB)による国際規格(ISO 20387:2018)に基づく国内初のバイオバンク認定を受けました。2024年4月18日に、都内JABにおきまして認定証の授与式が行なわれました(授与式写真)。本認定により、国内外の医学研究者に世界標準の品質管理を行っているバイオバンクとして認識され、疾病の新たな診断法や治療法の開発・研究、国際共同研究に貢献する事が期待されます。
背景
科学では、誰が実験しても同じ結果が再現されることが重要です。しかしライフサイエンスや医学研究分野では発表された論文のデータの再現ができないことが少なくないと指摘されています(※1)。この再現性の欠落は、結果的に莫大な研究開発費と時間の損失も招いています(※2)。再現性を得られない原因の多くは、計測や解析を行う前の工程ですでに起こっています(※3)こうした問題を回避するためにヒト生体試料と情報を収集して医学研究に資する「バイオバンク」の設立が活発になりました。その一方で、複数のバイオバンクの生体試料を利用する国際研究開発の機会も増え、試料と情報の収集に係る標準化の必要性が表面化しました。2018年、国際標準化機構(略称:ISO)は、バイオバンクの収集する生体試料と情報の品質マネジメントを含む運用に関連した一般要求事項を規定し、適切な品質の生物材料と関連データの収集を確実にすることを目的としたバイオバンクの国際規格(ISO 20387:2018 ※4)を発行しました。その後、我が国では、この国際規格に一致した(IDT)国内規格として日本産業規格(JIS Q 20387:2023)が制定されました。
これらの規格では、バイオバンクの経営・組織・ガバナンスから、教育・研修等を含めてバイオバンクの人員の管理、試料や情報の入手から提供に至る設備や手順、文書に基づく品質マネジメントシステムの構築と実行の要件などについて細かく規定されています。
これまでに欧米、中国、豪州で、同規格に基づいた20施設ほどの認定バイオバンクが誕生していますが、各疾患分野で国内の少なくとも一か所のバイオバンクが認定を受けていない場合、将来の大規模国際共同研究から日本人試料が省かれる、すなわち日本人の疾患研究が取り残されるリスクもありました。この度、NCNPバイオバンクならびにNCGGバイオバンクに加え、大学の運営する2つのバイオバンクがJABより認定を受けたことで、国際的に信用されるバイオバンクが国内に普及することが期待されます。
国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)であるNCNPならびにNCGGは、それぞれの専門領域において、新しい予防法、診断法、治療法を必要とする疾患の研究・診療を行っている国立研究開発法人であり、ナショナルセンターならではの豊富で詳細な臨床情報をもとに、今後も、世界標準のバイオバンクとして品質マネジメントシステムに基づく施設運営を行い、医学研究に貢献していきます。
キーワード/用語
バイオバンク:バイオバンクとは、もともと、生物資源を研究用に収集、分譲する事業や施設を指し、ヒトに限らず、マウス、ブタ、イネ、細菌等の動植物や微生物を対象としたバイオバンクが設置されています。さらに、主として治療目的で収集されている組織バンク(骨髄バンク、アイバンク)も存在します(出典:バイオバンク利活用ハンドブック https://www.amed.go.jp/content/000085128.pdf)。国際規格(ISO 20387:2018)では、研究開発を目的としたバイオバンクを対象としています。
国際標準化機構:
International Organization for Standardization(ISOと略されます)は、スイスに本部を置く非政府機関であり、国際的に通用する規格をISO規格として制定します。ISO規格は国際的な取引をスムーズにするために、製品やサービスを対象として制定や改訂がされます。国際規格には、クレジットカードやキャッシュカードのサイズやネジ、非常口のマークなどの製品の規格と、情報セキュリティや試験・検査施設の組織活動の仕組みに対するマネジメントシステム規格があります。
認定:
ISO規格や日本産業規格(JIS規格)には、認証と認定があります。「認定」とは、ISO 9001やISO 14001などのマネジメントシステムの認証(審査登録)、要員/製品の認証、試験、検査等を行う機関の活動が国際的な基準に従い、公平・透明に行われているかどうかを審査し(認定審査と呼びます)、公式に認め、登録することをさします。認定審査ではそれぞれの機関に対する要求事項を定めた国際規格(ISO/IEC規格又はガイドなど)を使用して認定審査を行います。一方、「認証」は、マネジメントシステム、要員、製品に対しそれぞれの要求事項を定めた規格に合致しているかどうかを第三者が審査し登録する仕組みをさします。
(出典:JABウェブサイト https://www.jab.or.jp/inquiry/faq)
倫理指針:
文部科学省・厚生労働省・経済産業省により定められている「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年3月制定、令和5年3月一部改正)を指します。バイオバンクで行う収集、扱う試料・情報の利活用は、この指針または臨床研究法などの臨床研究に関する法令・指針に基づいて行われます。
※1
Begley, C.G. and Ellis, L.M. Raise standards for preclinical cancer research. Nature 483, 531-533 (2012).
※2
Wadman, M. NIH mulls rules for validating key results. Nature 500, 14-16 (2013).
※3
Lippi, G., et al. Preanalytical quality improvement: from dream to reality. Clin. Chem. Lab. Med. 49, 1113-1126 (2011).
※4
ISO 20387:2018 “Biotechnology Biobanking General requirements for biobanking”
JIS Q 20387:2023 「バイオテクノロジー バイオバンキング バイオバンキングに関する一般要求事項」
関連リンク
NCNPバイオバンクhttps://biobank.ncnp.go.jp/
National Center Biobank Network(NCBN)
https://ncbiobank.org/