精神保健研究への患者・市民参画 ―協働の可能性を探る―

精神保健研究への患者・市民参画 ―協働の可能性を探る―

地域精神保健・法制度研究部(2021年度までの名称=地域・司法精神医療研究部)は、
地域に暮らす精神障害当事者とその家族が主体的な生活を送るための支援技法や
システムの開発、それらの効果検証に取り組んでいます。
研究の過程では、当事者や家族、実践家、行政職員、研究者など多様な立場の人たちが
協働することを大切にしています。

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精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部

地域ケア時代の
研究の在り方

患者・市民参画のイメージイラスト
研究は当事者・家族と協働する時代へ

 精神科医療保健福祉施策の発展に伴い、日本でも地域で生活を営む精神障害当事者(以下、当事者) が増えてきました。地域で暮らす多くの人々と同様に、当事者やその家族は生活の中で様々な夢や希望を抱え、多様な人間関係を持っています。また、当事者は希望を実現する過程で、個別の ニーズを持つことがあります。そのニーズには再発しないことだけではなく、多様な内容が含まれると予想されます。一方で、私たち研究者は、当事者や家族の真のニーズや必要とする支援を理解しているでしょうか?
 私たちの研究部は、当事者や家族のニーズを理解するためのヒントが、かつて国連で当事者が示した合言葉「私たちの事を私たち抜きで決めないで!」にあると考えています。すなわち、当事者や家族の生活を応援する地域ケアに関する研究は、当事者らと一緒に取り組むことが重要と考えています。また、地域の支援者や行政職員など他の関係者も巻き込むことで現実的で効果的な実践を開発できる可能性が一層高まると期待されます。このような研究活動は「患者・市民参画」や「共同創造」と表現され、地域ケア時代の研究の キーワードとなっています。

新しい尺度の
開発と
調査プロジェクト

多様な立場の者が参加するミーティングの写真
多様な立場の者が参加するミーティング

 私たちの研究部は、「患者・市民参画」の先駆的な取り組みを行っています。その成果のひとつが、当事者と共同開発した主体性に関する尺度です。当事者の主体的な生活の実現の重要性は世界中で指摘されていますが、簡便な尺度は国際的に未開発でした。そこで、私たちは当事者と協働して、新しい尺度 (SPA-5) を開発し、世界に発信しました。SPA-5は誰でも利用できるように、平易な言葉を用いた5つの質問で構成された、汎用性の高い尺度となっています。
 日本における「患者・市民参画」を推し進めるために、私たちは『TOGETHER』という調査プロジェクトを立ち上げました。その一環として、当事者や家族、支援者、行政職員、研究者を対象として、「患者・市民参画」に関するインタビュー調査を実施しました。その結果、多くの参加者が「患者・市民参画」が研究の質の向上や有効な治療・支援の開発に貢献すると期待する一方で、当事者と研究者との信頼関係の構築に不安を抱いていることが明らかになりました。
 当部の研究で積み上げた科学的知見と経験をもとに、現在、私たちは学会のシンポジウムや研修会などで「患者・市民参画」を取り上げ、普及啓発の実績を積み重ねています。


リファレンス

1. Yamaguchi S, Shiozawa T, Matsunaga A, Bernick P, Sawada U,Taneda A, Osumi T, Fujii C. Development and psychometric properties of a new brief scale for subjective personal agency (SPA-5) in people with schizophrenia. Epidemiology and Psychiatric Sciences (2020) 29, e111
2. 山口創生, 小川亮, 阿部真貴子,五十嵐百花, 川口敬之,塩澤拓亮, 安間尚徳,佐藤さやか:保健医療福祉サービス領域の研究における患者・市民参画と共同創造の概要. 精神障害とリハビリ テーション (2021) 25, 6-17.

研究部紹介

地域精神保健・法制度研究部

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研究部のメンバー

【研究部ホームページリンク】
精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/

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