メンタルヘルスを自分ごとに
精神疾患がありふれたものであることは、日本を含めた国際調査で示されており、周囲の人が経験する可能性も含め と、人生の中でほぼ全ての人が関わるものといえます。ですから一人一人が、精神疾患について「自分ごと」として認識 することが望まれますが、現状では不調や病を経験して初めて「自分ごと」になる場合が多く、「できれば関わりたくない、 他人ごと」 と考える人も少なくありません。 精神疾患の予防や早期発見、また回復を支える環境作りには、メンタルヘルスリテラシーの向上が広く求められます。そのための研究活動として、私たちは普及啓発に着目しています。
私たちは、日本ラグビーフットボール選手会と共に、アスリートのメンタルヘルス研究に取り組んでいます。日本のスポーツ界においても、メンタルヘルスの課題は、ある種タブーのように扱われる場合もあり見過ごされてきました。実際に、この研究から発表した 「ラグビー選手においてもメンタルヘルスの課題は一般人と同様にありふれたもの」という知見を示した論文は、国内アスリートを対象にしたメンタルヘルスに関する研究では日本で初めてのものでした。
アスリートと共に取り組むメンタルヘルス普及啓発
研究に基づく普及啓発の取り組みとして、「よわいはつよいプロジェクト」を共同研究チームで立ち上げました。このプロジェクトでは不調を含め心の状態を受け入れる、つらさを周囲の人と支え合う、という心のあり方を共有することの大切さを発信しています。 また、アスリートがメンタルヘルスの専門家と学校を訪問し、共にメンタルヘルスについて考える機会を持ちました。児童とアスリートは一緒に身体を動かし、絵を描くことを通じて、「心と身体の繋がり」「心の様子を表現す ること」「友達の心の様子を知ろうとすること」を学びます。このような取り組みで、アスリートの心の健康を築くだけでなく、子どもや若者への普及啓発も期待されます。
また、私たちは国際オリンピック委員会(IOC) が公開したメンタルヘルス教育ツールキットの日本語翻訳版の作成にも取り組みました。ツールキットは、スポーツ組織がメンタルヘルスに取り組むために必要な知識や指針です。2022年4月に精神保健研究所に「スポーツと精神保健教育に関する検討委員会」が立ち上がり、日本スポーツ界、ひいては国民全体のメンタルヘルスリテラシー向上への貢献を目指します。
リファレンス
- プレスリリース2021年2月4日「ラグビー選手におけるメンタルヘルスの 実態 ~ジャパンラグビートップリーグ選手におけるメンタルフィットネス の調査からの報告〜」https://www.ncnp.go.jp/topics/2021/20210204p.html
- プレスリリース2021年8月26日 「ラグビー選手における、 こころの不調へ の対処行動の特徴~ジャパンラグビートップリーグ選手(当時)におけ るメンタルフィットネスの調査からの報告〜」https://www.ncnp.go.jp/topics/2021/20210826p.html
- プレスリリース2022年10月13日 「アスリートのメンタルヘルス支援の促 進へ ~国際オリンピック委員会(IOC) によるメンタルヘルス教育教材の 日本語翻訳版を公開〜」https://www.ncnp.go.jp/topics/2022/20221013p.html
研究部紹介
地域精神保健・法制度研究部
地域精神保健・法制度研究部 小塩 靖崇 研究員
地域精神保健・法制度研究部のメンバー
【研究部ホームページリンク】
地域精神保健・法制度研究部
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/
精神保健研究所
https://www.ncnp.go.jp/mental-health/
記事初出
「Annual Report 2021-2022」(2022年12月発行)
>広報誌
※職員の所属情報は2022年9月1日現在のものです