筋サルコイドーシスにおける内在性レトロウィルスTHE1B融合遺伝子群の発見
ヒトゲノム配列の解読が終了して判明したことのひとつは、筋肉、皮膚、臓器などの主要な構成成分であるタンパク質(アミノ酸)情報をコードしているDNA 配列の割合が全体の僅か1.5%だったことです。しかし、それとは対照的に太古の霊長類に感染して、そのままゲノムに組み込まれたと考えられるレトロウィルス由来の配列(内在性レトロウィルス)が約8%もありました。それらは、長い長い歴史(進化)の中で、ゲノム配列の中で複製し、移動し、繰り返し増幅し、様々な変異によって、ウィルス本来の機能を持たない化石DNAになったと考えられてきました……。しかし、実際は違いました。なんと、サルコイドーシスに特徴的な病変部位である肉芽腫の細胞で息を吹き返していたのです。本研究では、筋サルコイドーシス(サルコイドミオパチー)患者さん由来の検体において、内在性レトロウィルス配列(THE1B)が、すぐ隣にある遺伝子配列(エクソン)に不正アクセスして融合転写産物を構成していることを見出しました。その融合転写産物は、症状の無い対照検体に比べ数十倍から百数十倍、高く発現していました。さらに詳細な解析により、肉芽腫性マクロファージという細胞で高く発現していることを見出しました。
レトロトランス・ゲノミクスとCOFFEE法
当研究室の特徴は、ヒトの遺伝情報学と数理学的解析を組み合わせたデジタル遺伝学です。特にレトロトランスポゾン解析を基盤とした疾患トランスクリプトームから全ゲノム解析へのレトロトランス・ゲノミクスを展開しています。その中心となるCOFFEE 法は、独自開発した解析ツールで、「疾患群において異常発現するレトロトランスポゾンと融合する転写産物を全ゲノム領域から一挙に発見できる解析プログラム」です。まず、ヒトゲノムに潜在する460万箇所の転移因子配列(レトロトランスポゾンとDNAトランスポゾン)について、疾患ゲノムで異常発現、異常構造を示す転写産物があるか否かを定量しながら、統計的手法を用いて対照群と比べ、ゲノム全体から病気と関連する遺伝子領域をみつけます。
我々は、特にロングリードRNA-seqデータから得られた異常転写産物の完全長cDNA配列を標準配列として利用し、数百例の検体から得られたショートリードRNA-seqデータと組み合わせることで、疾患群で異常発現する転写産物を特定しています。
今後、サルコイドーシスのみならず、他の炎症性筋疾患まで研究の規模を拡大し、病態経路の解明、診断・治療法のシーズ開発を目指します。
リファレンス
1.Funaguma S, Iida A, et al. Retrotrans-genomics identifies aberrant THE1B endogenous retrovirus fusion transcripts in the pathogenesisof sarcoidosis, Nature Communications , 2025, 6: 1318.
2.プレスリリース 2025年2月7日「肉芽腫性疾患の異常遺伝子群を発見 ~ヒトゲノムに潜在する太古の内在性レトロウィルスが現代の遺伝子をハッ
クするとき~」
https://www.ncnp.go.jp/topics/detail.php?@uid=eW2w9wV18DDaAU2L
研究部紹介
メディカル・ゲノムセンター(MGC)
船隈 研究員、飯田 室長(MGC ゲノム診療開発部 臨床ゲノム解析室 )
▼NCNP内連携組織リンク
神経研究所/疾病研究第一部
記事初出
「Annual Report 2023-2024」(2024年12月発行)
広報誌>Annual Report2023-2024
※職員の所属情報は2024年10月現在のものです。




