2021年度市民公開講座~ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み~

2021年度市民公開講座~ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み~

  1. TOP
  2. NCNP病院について
  3. 眠りと目覚めのコラム
  4. 2021年度市民公開講座~ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み~

はじめに

2022/2/17

文責:大槻 怜

 睡眠障害センターでは、去る2022年1月16日に令和3年度の市民公開講座を「~意外と身近な睡眠の悩み~」と題して開催いたしました。昨年に引き続きウェブ開催となりましたが、大勢の方々にご参加いただけたことに感謝申し上げます。

 市民公開講座の第一部は「ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み」と題し、コロナ禍での睡眠の悩みを①不眠、②睡眠リズム、③睡眠時間と社会的時差ボケの観点から整理しお話ししました。本コラムでは、その内容の要点についてお話ししたいと思います。

このコラムの内容

このコラムの内容

1.はじめに

2.ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み(要因と対策)

 1)不眠について

 2)睡眠リズムについて

 3)睡眠時間と社会的時差ボケについて

3.おわりに

1.はじめに

 新型コロナウイルス(COVID-19)の流行拡大によって、寝つくのに時間がかかる(入眠困難)、いちど眠りについても目が覚めてしまい、再び寝つくのに苦労する(睡眠維持困難)、予定している時間よりも早くに目覚めてしまう(早朝覚醒)などの不眠症状以外に、睡眠の質の低下や日中の眠気など様々な睡眠の悩みが増えたことが報告されています[1]。

 コロナ禍での睡眠の変化として①不眠症の有病率が高い[2]、②平日の入眠時刻、起床時刻が後退、③平日の睡眠時間が増加、平日と休日の睡眠中央時刻(睡眠の開始と終了の中間に当たる時刻)の差である社会的時差ボケが減少した[3]ことが報告されました。社会的時差ボケは、平日と休日との就寝・起床の生活リズムのズレのことです[4]。ズレが大きくなると体内時計の乱れにつながり、様々な睡眠の悩みを生じさせる要因になります。ここからは、①不眠、②睡眠リズム、③睡眠時間と社会的時差ボケについて、それぞれ説明していきたいと思います。


2.ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み(要因と対策)

1)不眠について

 眠れなくなり、その症状が長引く理由は3つの因子で説明されます[5]。図1のように性格傾向や遺伝要因といった準備因子をもつ人が、日常的なストレス、疾病への罹患、心配事、失業、死別などの増悪因子によって不眠が生じます。多くの場合は、要因の解消やその状況に慣れていくことで改善していきますが、不眠症状を解消するために飲酒や喫煙などの嗜好品を用いるなどの不適切な睡眠衛生、眠ろうと躍起になると却って目が覚めてしまう生理的過覚醒などの遷延因子が重なることで慢性化していくことがあります。

 コロナ禍は感染症へのストレス以外にも、自粛生活によるストレスや失業などによる生活上の強いストレスも生じやすく、急性不眠が生じやすい状況です。そのため、コロナウイルスに関するニュースに触れる時間を増やしすぎない、オンラインなどを利用し家族や友人と過ごす時間を作る、気晴らしをするなど、コロナウイルスへの過剰な不安や日常的なストレスを減らす、日中活動の維持、昼寝を控える、眠りを妨げる場合がある嗜好品(ニコチン、アルコール、カフェイン)が増えすぎないように注意する、必要以上に眠りの悪化を不安に思わないなどの工夫をすることで不眠を長引かせないようにしましょう。

 また、コロナ禍で体重増加やアルコール消費量が増えたとの報告があり[6]、体重増加による閉塞性睡眠時無呼吸の発症、飲酒による閉塞性睡眠時無呼吸の増悪に注意が必要です。閉塞性睡眠時無呼吸は就寝中のいびきや無呼吸を特徴としますが、中途覚醒や日中の眠気、倦怠感などがしばしば生じるため、不眠症と間違われやすい睡眠障害です。閉塞性睡眠時無呼吸に関しては、以前のコラム(睡眠時無呼吸診療について)で詳しく説明されておりますのでご覧ください。

対策①「不眠を長引かせないようにしましょう」

2) 睡眠リズムについて

 ヒトの体内時計の周期は、個人差があるものの、平均すると24時間よりもわずかに長いため、光、運動、食事、就労や就労といった社会因子などの同調因子を利用し24時間周期に合わせています。同調因子の中でも、特に光が重要で、朝の光は体内時計を早め、夜の光は体内時計を遅らせることが知られています。

 コロナ禍では休校・在宅勤務、外出自粛といった生活習慣の変化が生じ、インターネットやゲームなどのためのスクリーンタイムが増加したことが報告されています[7]。また、ストレスを強く感じている状態で生じやすい就寝時刻の先延ばし(理由がないにもかかわらず、心理的ストレスへの対処に伴って就寝時刻を予定より遅くしてしまうこと)は睡眠相の後退につながります[8, 9]。こういったコロナ禍の生活変化は朝の光を減らし、夜の光を増やすため、体内時計の乱れも生じやすくなっています。

 睡眠リズムの乱れは概日リズム睡眠・覚醒障害、特に睡眠覚醒相後退障害につながる可能性があるため、コロナ禍でも体内時計、睡眠―覚醒リズムを保ちましょう。睡眠相後退障害は、体内時計と社会生活で必要とされる睡眠―覚醒リズムの間でずれが生じているため社会的に望ましい時刻には寝付けず、起きられないために就労や就学に影響が出やすい病気です。睡眠相後退障害については以前のコラム(睡眠・覚醒相後退障害の治療プログラム)で詳しく説明されておりますのでご覧ください。

対策②「体内時計、睡眠-覚醒リズムを保ちましょう」

3) 睡眠時間と社会的時差ボケについて

睡眠不足や社会的時差ボケは抑うつや生活習慣病など心身の不調の要因になることが知られています。以前のコラムでも説明されていたように、1日の必要な睡眠時間は年代によって異なり、学生世代は約7-9時間、就労世代は6-8時間程度必要です。しかし、令和元年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、6時間未満の睡眠時間の人は男性の37.5%、女性の40.6%であり、男性の30-50歳代、女性の40-50歳代では4割を超えていました。このようにコロナ禍前は睡眠不足の人が多く、睡眠不足を解消しようと週末の寝だめをしてしまい、社会的時差ボケが生じていました。

コロナ禍での睡眠変化は平日の睡眠時間の増加、社会的時差ボケの減少という良い変化にもつながりました。しかし、今後生活が以前のように戻ると睡眠不足や社会的時差ボケの問題が再度生じてしまう可能性があります。そのため、ウィズコロナ・ポストコロナ社会でも睡眠不足、社会的時差ボケに気を付けましょう。

対策③「睡眠不足、社会的時差ボケに気を付けましょう」


3.おわりに

 本コラムでは令和3年度の市民公開講座の第一部「ウィズコロナ・ポストコロナ社会の睡眠の悩み」でお話しした内容の要点についてまとめました。具体的な対策方法は、睡眠健康を保つために | 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部眠りと目覚めのコラムでも詳しく紹介しておりますので参考にしてみてください。

1. Partinen, M., et al., Sleep and daytime problems during the COVID-19 pandemic and effects of coronavirus infection, confinement and financial suffering: a multinational survey using a harmonised questionnaire. BMJ Open, 2021. 11(12): p. e050672.
2. Cénat, J.M., et al., Prevalence of symptoms of depression, anxiety, insomnia, posttraumatic stress disorder, and psychological distress among populations affected by the COVID-19 pandemic: A systematic review and meta-analysis. Psychiatry Res, 2021. 295: p. 113599.
3. Leone, M.J., M. Sigman, and D.A. Golombek, Effects of lockdown on human sleep and chronotype during the COVID-19 pandemic. Curr Biol, 2020. 30(16): p. R930-r931.
4. Wittmann, M., et al., Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiol Int, 2006. 23(1-2): p. 497-509.
5. Spielman, A.J., L.S. Caruso, and P.B. Glovinsky, A behavioral perspective on insomnia treatment. Psychiatr Clin North Am, 1987. 10(4): p. 541-53.
6. Sidor, A. and P. Rzymski, Dietary Choices and Habits during COVID-19 Lockdown: Experience from Poland. Nutrients, 2020. 12(6).
7. Schmidt, S.C.E., et al., Physical activity and screen time of children and adolescents before and during the COVID-19 lockdown in Germany: a natural experiment. Sci Rep, 2020. 10(1): p. 21780.
8. Herzog-Krzywoszanska, R. and L. Krzywoszanski, Bedtime Procrastination, Sleep-Related Behaviors, and Demographic Factors in an Online Survey on a Polish Sample. Front Neurosci, 2019. 13: p. 963.
9. Bernecker, K. and V. Job, Too exhausted to go to bed: Implicit theories about willpower and stress predict bedtime procrastination. Br J Psychol, 2020. 111(1): p. 126-147.