認知症・もの忘れ

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「もの忘れ」とはどんな症状をいうのでしょうか?

記憶は、(1) 情報を覚えこむこと(記銘)、(2) 情報を保存しておくこと(保持)、(3) 情報を思い出すこと(想起)の3つの過程から成り立っています。「もの忘れ」とは、いったん覚えた内容を思い出せないこと(想起,再生の障害)を意味します。

もの忘れという言葉で、老化によっておこる生理的な記銘力障害と同時に病的な「認知症」を意味することがあります。もの忘れといっても、それが朝ごはんの内容を詳しく思い出せないものなら加齢による記銘力低下でしょうし、朝ごはんを食べたこと自体を忘れるようなら病的と言えるかもしれません。
病的な「もの忘れ」、(認知症)をもたらす疾患のなかで一番多いアルツハイマー病では、いつどこで何が起こったかという日常の出来事や思い出の記憶であるエピソード記憶が初期から障害されるといわれています。一方、初期には記銘力障害は目立たず、注意力や遂行能力障害が目立つレビー小体型認知症のような病気もあります。

記憶であるエピソード記憶が初期から障害されるといわれています。

「認知症」とはどんな状態ですか?

脳の機能は、記憶、見当識、言語、認識、計算、思考、意欲、判断力など多様です。認知症ではこれらの脳の機能(認知機能)が持続的に障害され、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。日常生活場面では、仕事上のミスが増える、以前のように食事を作れなくなる、金銭管理ができなくなる、などの変化が現れます。また、以前に比べると脳の機能が低下しているものの日常生活は自立しており、認知症とも正常ともいえない状態のことを軽度認知障害と呼びます。認知症には、不安、うつ症状、幻覚、妄想、不眠、興奮などの行動・心理症状を伴うことがあります。

認知症の原因は、アルツハイマー病が最も多く、脳血管障害による認知症、レビー小体型認知症、診断が難しい高齢者タウオパチーなど多数あります。認知症に似た症状を呈するのが、せん妄という状態やうつ病等の精神疾患であり、区別する必要があります。
ですから、認知症の状態は、認知症を引き起こした原疾患によって様々です。記憶力障害はほとんどないのに、社会的生活が重度の障害されるようなこともありうるのです。

せん妄(せんもう)とはどんな状態ですか?

せん妄とは、意識がもうろうとして注意が集中できない、時間と場所がわからない、幻覚・錯覚、興奮などの症状が急性に発症し、症状が激しく変動する状態です。意識が混濁しているため、その間の記憶は障害されています。肺炎などの体の病気などがきっかけで、急性の脳障害であるせん妄が起こります。治療としては、せん妄の原因となっている体の病気を治療することが第一ですが、それでも日常生活の障害が続く場合は、幻覚や興奮に対して薬物療法を行うこともあります。
高齢者にある日突然「いないはずの人の姿が見えると言って騒ぐ、つじつまの合わないことを言う、興奮して落ち着かず夜も眠らない」などの症状が現れた場合は、せん妄の可能性があります。この場合は、体の病気が原因である可能性があるため、早急な検査が必要です。すぐに精神科、内科、老年科のある病院を受診することをお勧めします。

うつ病とはどんな状態ですか?

うつ病になると、気分が落ち込む、興味や喜びを感じられない、何をするのもおっくう、焦ってイライラしてしまう、考えがまとまらない、集中力の低下、自分を責めてしまう、体の不調(疲労感、食欲低下、頭痛など)、不眠などの症状が現れます。高齢者のうつ病では、もの忘れや判断力の低下を訴えることが多く、認知症と間違われることがあります。一方で、認知症の初期の症状や行動・心理症状として、うつ症状が現れることもしばしばあります。うつ病に対する治療としては、抗うつ薬による薬物療法や認知行動療法などの精神療法が有効です。

認知症かもしれないと疑った場合、どこに行ったら良いのでしょうか?

認知症を疑った場合はまず「かかりつけ医」にご相談ください。患者さんを普段から診療しているため、患者さんの健康状態(高血圧症、糖尿病、不整脈など)を把握しており、「以前と比較して日常生活能力が低下したかどうか」を評価する事ができます。かかりつけ医は必要に応じて、認知症疾患医療センターや、認知症専門クリニックや専門医療機関を紹介します。また、介護保険制度を利用するための意見書も作成します。

認知症の場合は、地域の保健・福祉・介護・医療機関と密接な連携を取り合いながら、よりよい治療と介護を進めることが大切です。特にご高齢の方の場合は、認知症以外にも高血圧症、糖尿病、高脂血症などの疾患を伴うことが多く、健康管理と内科的な治療が不可欠です。従って、日常的に患者さんの全般的健康を管理している「かかりつけ医」の元で、認知症の治療もお受けになることをお勧めしています。

認知症は病院の何科に行くのが良いのでしょうか?

認知症の診療は、病院では精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科などが、それぞれの得意な検査や治療方法を生かして診療しています。
重篤な内科・外科疾患をお持ちの方は老人専門の総合医療機関(老人医療センターなど)の受診の継続もお勧めします。

認知症を診療する医療機関の機能分担はどうなっていますか?

(1) かかりつけ医:

認知症を含めて患者さんの日常的な診療を行います。

(2) 認知症サポート医:

かかりつけ医と認知症疾患医療センターの間の連携を取り持ちます。

(3) 認知症専門クリニック:

精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科などのクリニックが心理検査や脳CT、脳MRIなどの機器をもち、クリニックを開設しています。

(4) 認知症専門疾患医療センター:

認知症疾患医療センターは、認知症の専門医療相談、診断、行動・心理症状への対応等を行います。心理検査や脳CT、脳MRI、脳血流SPECT、PETなどの高度な検査体制がある総合病院、大学病院、精神・神経疾患専門病院、診療所が相当します。
当院のもの忘れ外来は、認知症疾患医療センターの機能を持っており、地域の保健・福祉・介護・医療機関と連携し、 認知症の人とその家族が安心して暮らせる地域づくりをすすめております。

(5) 老人性認知症専門病棟・老人性認知症疾患療養病棟:

認知症の行動・心理症状(不安、うつ症状、幻覚、妄想、興奮、暴言・暴力、介護への抵抗など)がみられご自宅や施設での生活が困難となり、入院が必要となった方々のための専門病棟です。薬物療法の他に、リハビリテーションなども行っています。

認知症の診断はどのようにするのですか?

患者さんの症状に応じて、認知症・軽度認知障害かどうか、その原因として考えられる病気は何かを診断します。甲状腺機能低下症等の内分泌疾患や、ビタミンB1欠乏などの代謝・栄養性疾患,正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などは、内科的治療や脳外科手術で治療が期待できるため、検査によって区別する必要があります。

1.ご家族や介護されている方から,もの忘れだけでなく日常生活の様子や介護状況等をお聞きし,認知症の重症度を評価します。

2.神経心理学的検査:もの忘れが認知症なのかどうかを調べます。

(1)簡易検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEと言われる広く行われているスクリーニング検査、うつ状態のスクリーニング検査など)で記銘力の低下、注意・遂行能力の低下、視空間認知の障害の有無を確認します。

(2)記憶機能検査や言語機能検査などにより,認知機能低下の詳しい程度を調べます。

(3)血液・脳脊髄液検査:認知症と認知症に似た症状を来す内科疾患(内分泌・代謝性疾患,膠原病,腎疾患,肝疾患,神経感染症,脳炎など)を区別するために行います。脳脊髄液検査により,アルツハイマー病の診断マーカー(アミロイドβ蛋白,タウ蛋白)を測定することができます。

画像検査:脳が萎縮していないか、血流の低下した部分があるか等を調べます。

(1)MRIやCTで、脳梗塞、脳出血、脳の萎縮,正常圧水頭症,慢性硬膜下血腫,脳腫瘍などを調べます。

(2)脳血流SPECTで脳の部位ごとの血流を調べます。

(3)MIBG心筋シンチグラフィーで心臓交感神経を,ドパミントランスポーターシンチグラフィーでドパミンの産生能を調べる検査を行うこともあります。これらの検査はレビー小体型認知症の診断に有用です。

4.脳波検査:脳機能の状態とてんかん性異常の有無を調べます。


5.心電図:認知症の薬は、ある種の不整脈の方には飲めません。前もって調べておきます。

認知症にはどんな治療がありますか?

(1) 薬物療法:

アルツハイマー病ではドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチンという抗認知症薬が認知症の進行を一定の期間遅らせる効果があるといわれています。レビー小体型認知症に対しても、ドネペジルが有効だといわれています。不安、うつ症状、幻覚、妄想、不眠、興奮などの行動・心理症状に対しては、適切なケア等の非薬物療法が優先されますが、抗精神病薬や抗うつ薬、気分安定薬、抑肝散なども副作用に注意しながら使用することがあります。なお、当院ではアルツハイマー病の病態そのものに効果を与えて本質的に治す可能性のある新しい薬剤の治験が常に行われています。

(2) ケア・リハビリテーション:

認知症のケアは、その人らしさを尊重しながら、得意なことや保たれている機能をうまく使い、認知症の行動・心理症状(不安、うつ症状、幻覚、妄想、不眠、興奮)のコントロールや、生活機能の改善を目指します。認知症のリハビリテーションは、運動療法等により、認知症の進行抑制や日常生活の質の向上を目指します。認知症の人が心地良く、地域で安心して暮らせるような環境、介護する方が介護しやすい環境を作ることも重要です。

(3) 生活指導:

糖尿病などの生活習慣病は、血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病の発症や進展にも関連すると考えられています。バランスの良い食事、糖尿病や高血圧症などのコントロール、適度な運動が重要であり、認知症の進行予防に有効であるという報告もあります。運動の中でもdual taskと言って、運動をしながら、他に一つ頭で使わせるようなことをやることで認知能力の維持もあり得ます。

介護はどの様にすればよいのでしょうか?

介護する方が疲れてしまい、心のゆとりが失われてしまうと介護の質が下がってしまうため、介護を一人で抱え込まないようにすることが重要です。介護に際して気を付けることは、認知症といっても特別な病気でないのですから、尊敬の念をもって接しましょう。また、能力に応じて家事も分担してやっていただきましょう。歩行に問題がなければなるべく歩行をしていただきましょう。たとえ幻が見えても(幻視)、即座に否定するのではなく、どうしてその幻視が見えるのだろうかと、ご本人の身になって考えましょう。介護は場合によっては長期にわたるものとなります。力まずに、様々なサービスを使って休みながら、行いましょう。介護に関するお悩みは地域包括支援センターにご相談ください。

介護保険制度は利用できますか?

介護保険制度で受けられるサービスの例としては、訪問介護(ヘルパーが食事、入浴、排泄の介護や、掃除、洗濯、調理などの生活支援を行います) 、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所(ショートステイ)などがあります。お住まいの市区町村の窓口で要介護認定を申請してください。申請後、行政の調査員が自宅等を訪問して、障害(運動や精神の障害)の程度を調査し、主治医の意見書と合わせて介護認定審査会において要介護度の判定が行われます。これらは通常1カ月以内に行われますが、急を要する場合は市役所や地域包括支援センターに相談してください。
要介護度に応じて受けられるサービスの上限額が決まっており、介護(介護予防)サービス計画書(ケアプラン)に基づいたサービスが本人・御家族の希望に沿って利用できます。「要介護」と認定された場合は、介護支援専門員(ケアマネージャー)が、ご家族や介護サービス事業者、医療機関等と連絡をとり、介護サービスの調整を行います。「要支援」と認定された場合は、地域包括支援センターが、介護予防サービスの調整を行います。

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