国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所
地域精神保健・法制度研究部

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リカバリー(Recovery)

リカバリーについて

米国の政府委員会によると、リカバリーとは、「人々が生活や仕事、学ぶこと、そして地域社会に参加できるようになる過程であり、ある個人にとってはリカバリーとは障害があっても充実し生産的な生活を送ることができる能力であり、他の個人にとっては症状の減少や緩和である」と定義されます1)。すなわち、リカバリーとは精神疾患の当事者あるいは精神保健医療福祉サービスを利用する当事者個人のものであり、当事者自身が歩むものです。

「リカバリー」という言葉自体は非常に多くの意味を持ちます。近年においては、上記で定義したリカバリーを「パーソナル・リカバリー」と呼ぶことが一般的です。パーソナル・リカバリーは複合的な概念です。例えば、パーソナル・リカバリーに関する調査結果をまとめた英国の研究は、①他者とのつながり、②将来への希望と楽観、③アイデンティティ・自分らしさ、④生活の意義・人生の意味、⑤エンパワメントをパーソナル・リカバリーの主要な構成要素として提案しています(図1)2)。最近では、現在困難に直面している当事者は、肯定的側面だけを強調することに違和感を持つ可能性があるという議論から3)、⑥生活のしづらさや生きづらさへの対応という要素もあると提案されています4)。他方、パーソナル・リカバリーは、医療や福祉サービスから単純に卒業したという意味ではないことも度々指摘されています5, 6)。また、最近では、スピリチュアリティ(精神的活動)や主体性、ソーシャルサポートがパーソナル・リカバリーを促進するものとして認識されています。またスティグマや精神保健福祉サービスと薬物治療が上手くいかなかった経験がパーソナル・リカバリーを阻害するものとして指摘されています3)





パーソナル・リカバリーの構成要素を見ると、それぞれの構成要素にたどり着くことがパーソナル・リカバリーであるというように見えてしまうかもしれません。しかしながら、パーソナル・リカバリーは夢や希望にたどり着いた結果というより、結果に行き着くまでの旅路(プロセスあるいは過程)であることが強調されています1-9)。また、パーソナル・リカバリーは希望を持つことから始まるともいわれています3, 7)。米国連邦保健省薬物依存精神保健サービス部が、当事者と一緒に作成したパンフレットには、当事者主導、多様な生き方など、当事者自身がパーソナル・リカバリーの旅路を歩むことに関連する10の指針的理念が紹介されています(図2)7)。さらに、当事者個人の視点からみると、そのプロセス(過程)は必ずしも右肩上がりの直線ではないかもしれません9-11)。加えて、定義からも推測できるように、パーソナル・リカバリーの内容やペース、目標の在り方は十人十色であり、支援者/専門家の助けを必要とする場合と必要としない場合があります9-11)。すなわち、リカバリーの文脈を考えるとき、主役(意思決定をする人)は常に当事者本人であり、その内容は当事者自身が価値をおく主体的かつ有意義な人生の軌跡そのものといえるでしょう(図3)。

パーソナル・リカバリーの発展の経緯とリカバリーの分類

リカバリーに関連する概念は欧米における1960・70年代の脱施設化や当事者活動・運動の中で徐々に育まれ、1980・90年代から主に米国で具体的に「リカバリー」という言葉で言及されはじめました6, 10, 12, 13)。21世紀になってから欧米を中心に徐々に国際的な広まりをみせ、2010年代に入ってからは、リカバリームーブメントとして世界的な潮流となっています12, 14, 15)

当事者活動の中から始まったリカバリームーブメントは、次第に世界中の支援者や専門家にも浸透し始めました。現在では、パーソナル・リカバリーを応援する支援を精神障害者支援の中核に位置づけることもめずらしくありません5, 14)。他方、支援者や専門家の間に「リカバリー」という言葉が広がり始めると、症状の減少や機能の向上を図る意味で用いる「リカバリー」という言葉と混同されてしまうこともありました。前述したように「リカバリー」という言葉自体は非常に多義的で、どちらかが正しい、間違っているというものではありません。そこで、最近ではリカバリーを「臨床的リカバリー」と「パーソナル・リカバリー」という形で分けて整理することがしばしばあります11, 15)。あるいは、「臨床的リカバリー」、「社会的リカバリー」、「パーソナル・リカバリー」という形で分けて理解されることもあります(図4)16-19)。一方で、様々な手法を用いた研究が「パーソナル・リカバリー」と「臨床的リカバリー」との一定の相関関係や、「パーソナル・リカバリー」と「社会的リカバリー」との関連性を指摘しています(図5)20-23)。 また、当事者経験を持つ方の中には、実生活において両者の関連を感じており、「臨床的リカバリー」「社会的リカバリー」と「パーソナル・リカバリー」がお互いに影響を受けていると考えている人もいます(図6,7)。ただし、「臨床的リカバリー」や「社会的リカバリー」でしばしば使用される指標(例:症状や機能、就労、住居状況)は「パーソナル・リカバリー」と関連・近接はしていても、それらの指標を用いてパーソナル・リカバリー自体を測定することは難しいといえるでしょう。なぜなら、パーソナル・リカバリーは一時点の状態でなく、個々の人生の旅路(プロセス・過程)であるからです。そして、何が自身のパーソナル・リカバリーであるかについて、最もよく判断できるのは当事者本人であり19, 24)、個々人によって、その内容が大きく異なるからです。例えば、症状が軽くなること(臨床的リカバリー)や就労すること(社会的リカバリー)は、人によってパーソナル・リカバリーと関連する場合もありますが、全く関係のない場合もあります。これらの議論は、「臨床的リカバリー」や「社会的リカバリー」の改善の重要性を否定するものではありません。すなわち、内面的なプロセス(過程)と高い個別性に代表される「パーソナル・リカバリー」の特徴を理解する中で、「臨床的リカバリー」や「社会的リカバリー」の位置付けを理解することが重要と思われます。











パーソナル・リカバリーを応援する支援者が意識すること

ここまで、リカバリーについての説明をしてきましたが、最後にリカバリーを応援する支援者/専門家に期待されていることも記します。パーソナル・リカバリーは、個々の当事者の人生の旅路といわれています。支援者/専門家が当事者のリカバリーを応援する機会を得た際には、支援の結果としてのアウトカム(実績・成績)を組織としてモニタリングするだけでなく、個々の当事者の旅路を伴走する支援内容が必要と指摘されています25, 26)。一方で、臨床的アウトカムなどではパーソナル・リカバリーを測ることはできませんし、両者に相関関係があったとしても、より良好な臨床的アウトカムを目指す実践でパーソナル・リカバリーが促進されるとは限りません5, 23, 27)。パーソナル・リカバリーを応援する支援には、具体的には①当事者自身が定めた目標に向かうプロセスを一緒に歩む支援(リカバリー志向型の支援)、②当事者個人の価値を重視する支援(value-based practice: VBE)、③当事者をニーズの充足するにあたり、当事者中心の援助を展開する支援(Person-centered services)、④当事者の希望する目標に対して、科学的により効果が期待できそうな実践(evidence- based practice: EBP, evidence informed practice: EIP)の実装と統合が求められています14, 15, 24-27)。これらの実装には、少なくとも当事者の生活圏に赴く個別支援(プロセスを一緒に歩む支援)と個人・機関レベルの振り返り(関連するアウトカムの確認)が可能な体制・システムが必要になると思われます。


文献

  1. President’s New Freedom Commission on Mental Health: Achieving the promise: transforming mental health care in America-Executive summary of final report (Rep. No. DMS-03-3831). Department of Health and Human Services, Rockville, 2003.
  2. Leamy M, Bird V, Le Boutillier C, et al: Conceptual framework for personal recovery in mental health: systematic review and narrative synthesis. Br J Psychiatry 199(6):445-452, 2011.
  3. van Weeghel J, van Zelst C, Boertien D, et al: Conceptualizations, assessments, and implications of personal recovery in mental illness: a scoping review of systematic reviews and meta-analyses. Psychiatr Rehabil J 42(2):169-181, 2019.
  4. Stuart SR, Tansey L, Quayle E: What we talk about when we talk about recovery: a systematic review and best-fit framework synthesis of qualitative literature. J Ment Health 26(3):291-304, 2017.
  5. Slade M, Amering M, Farkas M, et al: Uses and abuses of recovery: implementing recovery-oriented practices in mental health systems. World Psychiatry 13(1):12-20, 2014.
  6. Craig TJ: Social care: an essential aspect of mental health rehabilitation services. Epidemiol Psychiatr Sci 28(1):4-8, 2019.
  7. Substance Abuse and Mental Health Services Administration (SAMHSA). SAMHSA’s working definition of recovery: 10 guiding principles of recovery. Department of Health and Human Services, Rockville, 2012. URL: https://store.samhsa.gov/sites/default/files/d7/priv/pep12-recdef.pdf.
  8. Deegan P: Recovery as a journey of the heart. Psychiatr Rehabil J 19(3):91-97, 1996.
  9. Repper J, Perkins R: Recovery and social inclusion. Callaghan P, Playle J, Cooper L (eds): Mental health nursing skills. Oxford University Press, Oxford, pp85-95, 2009.
  10. Anthony WA: Recovery from mental illness: the guiding vision of the mental health service system in the 1990s. Psychosoc Rehabil J 16(4):11-23, 1993.
  11. 山口創生, 松長麻美, 堀尾奈都記: 重度精神疾患におけるパーソナル・リカバリーに関連する長期アウトカムとは何か?. 精神保健研究 62:15-20, 2016.
  12. Ostrow L, Adams N: Recovery in the USA: from politics to peer support. Int Rev Psychiatry 24(1):70-78, 2012.
  13. Davidson L: The recovery movement: implications for mental health care and enabling people to participate fully in life. Health Aff 35(6):1091-1097, 2016.
  14. Rössler W, Drake RE: Psychiatric rehabilitation in Europe. Epidemiol Psychiatr Sci 26(3):216-222, 2017.
  15. Thornicroft G, Slade M: New trends in assessing the outcomes of mental health interventions. World Psychiatry 13(2):118-124, 2014.
  16. Slade M, Amering M, Oades L: Recovery: An international perspective. Epidemiol Psichiatr Soc 17(2):128-137, 2008.
  17. Secker J, Membrey H, Grove B, et al: Recovering from illness or recovering your life? Implications of clinical versus social models of recovery from mental health problems for employment support services. Disabil Soc 17(4):403-418, 2002.
  18. Lloyd C, Waghorn G, Williams PL: Conceptualising recovery in mental health rehabilitation. Br J Occup Ther 71(8):321-328, 2008.
  19. Slade M, Longden E: Empirical evidence about recovery and mental health. BMC Psychiatry 15(1):1-14, 2015.
  20. Van Eck RM, Burger TJ, Vellinga A, et al: The relationship between clinical and personal recovery in patients with schizophrenia spectrum disorders: a systematic review and meta-analysis. Schizophr Bull 44(3):631-642, 2018.
  21. Best MW, Law H, Pyle M, et al: Relationships between psychiatric symptoms, functioning and personal recovery in psychosis. Schizophr Res 223:112-118, 2020.
  22. O'Keeffe D, Hannigan A, Doyle R, et al: The iHOPE-20 study: Relationships between and prospective predictors of remission, clinical recovery, personal recovery and resilience 20 years on from a first episode psychosis. Aust N Z J Psychiatry 53(11):1080-1092, 2019.
  23. Leendertse JCP, Wierdsma AI, van den Berg D, et al: Personal recovery in people with a psychotic disorder: a systematic review and meta-analysis of associated factors. Front Psychiatry 12:622628, 2021.
  24. 後藤雅博: <リカバリー>と<リカバリー概念>. 精神科臨床サービス 10(4):440-445, 2010.
  25. Slade M: Personal recovery and mental illness: a guide for mental health professionals. Cambridge University Press, Cambridge, 2009.
  26. 池淵恵美: エビデンスに基づく実践(EBP)とパーソナルリカバリーの時代. 精リハ誌 21(2):117-126, 2017.
  27. Davidson L: Is "personal recovery" a useful measure of clinical outcome? Psychiatr Serv 70(12):1079-1079, 2019.

[Last update 2021/11/29]

本ページの引用情報

〇文章全体, 図1-5
地域精神保健・法制度研究部:リカバリー(Recovery):第4回改定版. 国立精神・神経医療研究センター, 小平, 2021. URL: https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/about/recovery.html

〇図6
彼谷哲志, 山口創生: パーソナル・リカバリーと臨床的リカバリーとの関係性とイメージ. 国立精神・神経医療研究センター, 小平, 2018. URL:https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/about/recovery.html

〇図7
彼谷哲志, 山口創生: 当事者から見たパーソナル・リカバリー、社会的リカバリー、臨床的リカバリーの関係性: パーソナル・リカバリーが中心にあり、その周囲に社会的/臨床的リカバリーが存在するイメージ. 国立精神・神経医療研究センター, 小平, 2018. URL:https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/about/recovery.html