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リカバリー、スティグマ、メンタルヘルスリテラシー
リカバリー(特にパーソナル・リカバリー)を一言でいうと、「精神疾患の当事者や精神保健医療福祉サービス利用者にとって、「(多くの人が考える)普通/ノーマルになることではなく、より深みのある人間らしくあるための活動やプロセス」と表現できるかもしれません1)。スティグマをごく簡単に表現すると、「精神疾患の当事者やサービス利用者が、周囲の人や社会から不当に評価されることや不当な扱いを受けること」といえると思います2)。また、メンタルヘルスリテラシーという言葉を耳にする機会が増えてきましたが、これは、「精神疾患を含めメンタルヘルスに関する心構えや生活スキル」3)であるといえるでしょう。それぞれの言葉について、詳しく知りたい方は、下記のリンク から解説ページにお進みください。
リカバリーについてスティグマについて
メンタルヘルスリテラシーについて
リカバリーとスティグマとの関係性
パーソナル・リカバリーとスティグマは、多くの場合互いに関連しています4-6)。パーソナル・リカバリーは、新たな機会や生きがい、充実した人生へのチャレンジ的な側面や社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)に焦点を当てます。他方、スティグマは社会や市民の偏見・差別を通して、当事者が新たな機会を得ることを減少させるだけでなく、自尊心や自己効力感、自分の能力に対する自信の低下にも関連しており、社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)を助長するものとして位置づけられています5-7)。このように、当事者がパーソナル・リカバリーを追求できる社会は、スティグマが少ない社会といえいるかもしれません。逆に深刻なスティグマが蔓延する社会では、当事者はパーソナル・リカバリーを追及しづらいと予想されます。すなわち、両者はシーソーゲームのような関係の概念であるといえそうです。また、アンガーマイヤーとショーメルスは、パーソナル・リカバリーとスティグマについて、当事者が安心・安定した生活を送るための挑戦と障壁という異なる視点から見たものであると提案しています。彼らは両者の関係性について、半分水が入ったコップにたとえて、パーソナル・リカバリーの視点から「半分入っているコップ(half full glass)」とみるか、スティグマの視点から「半分空っぽのコップ(half empty glass)」とみるかであると指摘しています5)。
スティグマとメンタルヘルスリテラシーとの関係性
メンタルヘルスリテラシーは、ヘルスリテラシーの概念(健康を高めたり、維持したりするのに必要な情報や支援を活用するための認知・社会的スキル)を心の健康に特化して整理したものです3)。精神保健の向上、精神疾患の予防・早期発見・回復のための心構えや生活スキルといえるかもしれません。精神疾患に対するスティグマの軽減は、このような心構えや生活スキルの重要な要素の1つであると考えられています。
文献
- Deegan P: Recovery as a journey of the heart. Psychiatr Rehabil J 19(3):91-97, 1996.
- 山口創生, 米倉裕希子, 周防美智子, 他: 精神障害者に対するスティグマの是正への根拠:スティグマがもたらす悪影響に関する国際的な知見. 精リハ誌 15(1):75-85, 2011.
- Kutcher S, Wei Y, Coniglio C: Mental health literacy: past, present, and future. Can J Psychiatry 61(3):154-158, 2016.
- Whitley R, Campbell RD: Stigma, agency and recovery amongst people with severe mental illness. Soc Sci Med 107:1-8, 2014.
- Angermeyer M, Schomerus G: A stigma perspective on recovery. World Psychiatry 11(3):163-164, 2012.
- Avdibegović E, Hasanović M: The stigma of mental illness and recovery. Psychiatria Danubina 29(Suppl 5):900-905, 2017.
- Livingston JD, Boyd JE: Correlates and consequences of internalized stigma for people living with mental illness: a systematic review and meta-analysis. Soc Sci Med 71(12):2150-2161, 2010.
[Last update 2021/11/29]