国立精神・神経医療研究センター
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「地域生活中心」を推進する、地域精神科医療モデル作りとその効果検証に関する研究

抄録

 本研究は地域精神科医療モデルを構築しその効果を検証する多施設共同研究を中心に据えている。初年度となる今年度は、この研究に共通の基本プロトコルを作成し、それにしたがって、各研究協力機関にモデルプログラムを構築、実施し、その多面的な効果評価のベースライン調査を開始した。

 核となる4か所の研究協力医療機関は初年度前半に①多職種アウトリーチチーム、②認知機能リハビリテーションと援助付き雇用、の二つのサービスプログラムを医療機関および地域の資源を活用して構築した。2か所の副たる研究協力医療機関は、認知機能リハビリテーションと援助付き雇用のプログラムを構築した。また、スタッフは研修を受け、ストレングスモデルによるケアマネジメントを共通の支援技法とするように努めた。

 本研究は科学的根拠に基づく実践の効果判定研究であり、多職種アウトリーチチームは、介入群・対照群を利用者の居住地区によって振り分ける準実験法を用いた。認知機能リハビリテーションと援助付き雇用は一定の条件を満たす対象者を、無作為割り付けにて介入群、対照群に振り分けるランダム化比較試験(RCTデザイン)を採用した。

 評価の領域は、アウトカム、医療経済学的評価、スタッフの意識の3領域である。

 フォローアップ期間は1年間である。アウトカム指標としては、多職種アウトリーチチームの効果に関しての主たる指標は地域滞在日数で、そのほか入院回数・救急利用回数・治療中断歴・逮捕/拘留歴等のサービス利用の在り方の変化、患者のQOL、生活時間の構成の変化に関する指標、精神症状や生活機能の評価などが用いられている。認知機能リハビリテーションと援助付き雇用の主たる指標は就労関連指標であり、就労率、就労継続日数、総賃金などが指標としてある。認知機能リハビリテーションの効果判定としての神経心理検査等でとらえられる認知機能、作業能力や、精神症状評価、生活時間の構成の変化なども臨床関連指標として用いる。医療経済的評価指標としては、多職種アウトリーチチーム、および認知機能リハビリテーションと援助付き雇用とも、(ⅰ)レセプト調査、(ⅱ)サービスコードによる支援量・人的コストの把握調査、(ⅲ)CSRI-J(日本語版Client Socio-Demographic and Service Receipt Inventory)を用いた社会資源利用により生じるコスト集計調査によりデータ取集を行い、介入群、対照群共にコストの総計および、継時的なコストの推移を求める。また費用対効果分析も行う。現行の制度ではいわゆる「持ち出し」となるコストがどの程度存在するかについても調査を行う。スタッフの意識変化の指標については、核となる研究協力4機関のモデルプログラム関与スタッフを介入群とし、国立病院機構で精神科アウトリーチ部門かつまたはデイケア部門を有する11機関で,当該支援に関与する担当受け持ちのあるスタッフを対照群におき、ストレングス志向の支援態度(11項目)のほか、組織風土に対する認識を問う尺度などを用い、自記式の調査紙を用いる評価をプログラム開始時、1年後と評価することとした。

 以上の中心となる多施設共同の介入研究に加えて、関連研究として、今年度は「全国ACT事業所による診療報酬の観点から見た医療経済実態調査研究」「地域精神保健福祉医療における支援スタッフのストレングス志向の支援態度評価尺度の開発」を行った。

 本稿では今年度の活動内容や成果について述べるとともに、来年度以降の研究課題についても言及した。

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