国立精神・神経医療研究センター
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共同意思決定 (SDM) を促進するPCツールの効果測定

共同意思決定(Shared decision making: SDM)とは、精神科医療サービスの利用者と医師(専門家)が治療ゴールや治療の好み、責任を話し合って、2人で適切な治療を見つけ出すことです1,2)。 近年の(パーソナル・)リカバリーという概念には、エンパワメントという概念が含まれます。これは、エンパワメントとは、人々が他者とのかかわりを通して、自分にとって最適な状況を主体的に選びとり、主体的な価値を獲得するプロセスです3,4)。 つまり、専門家が利用者のパーソナル・リカバリーを応援する際には、「代わりにやってあげる」のではなく、利用者が自身の生活や治療を主体的に決めていけるような支援が求められます1)。 すなわち、共同意思決定(SDM)は、精神科の診療場面で医師ができるリカバリーの応援ということになります。

しかし、共同意思決定(SDM)を実際にどのように実践していくかについては、日本を含め国際的な課題となっています5,6)。 そこで、私たちは米国カンザス州の実践を参考に、精神疾患を経験し、自身も精神科医療のサービスを利用した経験のあるピアスタッフと協働する新しい共同意思決定(SDM)システムを開発しているところです7-9)。 私たちの共同意思決定(SDM)システムでは、自身の人生の目標や主体的価値などの情報を診察で医師に伝えるために、診察前に利用者はSHARE(Support for Hope And REcovery)というパソコンソフトを用いて、ピアスタッフの補助のもとそれらの情報を整理し、入力します。 パソコンソフトSHAREに入力された情報は電子媒体に保存されます。 また医師との診察用に情報が集約された紙面媒体(A4サイズ)として印刷されます。 この紙面媒体を用いて、利用者と医師は診察を進め、診察の最後に治療や支援の意思決定を一緒に実施します10)

この開発中のSDMシステムの効果を検証するために、パイロット調査を実施したところ、既存の診察を続けた参加者と比べ、SDMシステムを利用した参加者は医師との関係性やコミュニケーションの内容、満足度などが向上していました(スライド参照)。


  1. 山口創生, 種田綾乃, 下平美智代, 久永文恵, 福井里江, 吉田光爾, 佐藤さやか, 片山優美子, 伊藤順一郎: 精神障害者支援におけるShared decision makingの実施に向けた課題:歴史的背景と理論的根拠. 精神障害とリハビリテーション 17(2):182-192, 2013.
  2. Matthias MS, Salyers MP, Rollins AL, Frankel RM: Decision making in recovery-oriented mental health care. Psychiatr Rehabil J 35(4):305-314, 2012.
  3. 巴山玉蓮, 星旦二: エンパワーメントに関する理論と論点. 総合都市研究 81:5-18, 2003.
  4. 池田和恵, 松尾ひとみ: 「エンパワーメント」概念の活用状況 :文献検討を通して. 静岡県立大学短期大学部研究紀要 24:1-8, 2010.
  5. 山口創生: 精神保健サービスにおけるShared decision making:現状と課題. リハビリテーション研究 163:4-9, 2015.
  6. 山口創生, 種田綾乃, 市川健, 坂田増弘, 久永文恵, 福井里江, 藤田英親, 伊藤順一郎: 日本の精神科診療における患者-医師関係とコミュニケーション:システマティック・レビュー. 精神医学 56(6):523-534, 2014.
  7. 福井里江, 伊藤順一郎, 山口創生, 種田綾乃, 澤田優美子, 久永文恵: リカバリー志向のSDM支援システム『SHARE』の開発. リハビリテーション研究 163:16-21, 2015.
  8. 種田綾乃: SDMの実践におけるピアスタッフの意義と役割. リハビリテーション研究 163:22-27, 2015.
  9. 山口創生, 種田綾乃, 福井里江, 久永文恵, 澤田優美子, 伊藤順一郎: 精神障害者の社会復帰とリカバリーを促進するshared decision makingプログラム:ピアスタッフと共同した臨床システムの発展. リハビリテーション研究 163:22-27, 2015.
  10. 坂田増弘: 精神科医の育成とSDM. こころの健康 29(9):28-33, 2014.