未診断疾患の解決に向けて「全国どこにいても・誰でも」診断できる体制が確立

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2022年4月5日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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未診断疾患の解決に向けて
「全国どこにいても・誰でも」診断できる体制が確立

 医学が進歩した現代にあっても、依然として原因が不明である疾患は少なくありません。遺伝性疾患のデータベースであるOMIMによると、登録されている9,000あまりの疾患の実に1/3が原因不明となっています。また、原因が分かっていたとしても、非常に希少だったり、病気の症状が複雑であったりすることから、あちこちの病院を巡ってさまざまな検査を行ったとしても、診断さえついていない患者さんが世の中にはたくさんいらっしゃいます。
 わが国では1972年に難病対策要綱が策定され、世界に先駆けて希少・難治性疾患の克服に取り組んでおり、着実な成果を挙げてきています。しかし、2015年と2016年に行われた日本医療研究開発機構(AMED)の調査では、全国で37,000人以上の患者さんが診断さえついていない、いわゆる「未診断疾患」であるというデータも得られています。このような「未診断疾患」の解決は世界的な潮流であり、各国が協力して研究を推進する体制が構築されています。本邦でも、2015年にAMEDの基幹プロジェクトとして未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:IRUD)が発足しました。IRUDの目標は、① 全国どこにいても・誰であってもIRUDに参加できる体制を作る、②網羅的ゲノム解析に代表される革新的な技術を活用して診断を確定する、③国内外でデータを共有(データシェアリング)して利活用する、ことにより、未診断疾患の解明・克服をめざすことです。このたび、IRUDはこれらの目標を達成し大きな成果を上げることができ、その6年間の活動と成果を発表しました。
 本研究成果は日本時間2022年3月23日に、雑誌「Journal of Human Genetics」オンライン版に掲載されました。

IRUD体制図

図1 IRUD体制
IRUDは、中央倫理審査体制が確立しており①IRUD診断連携、②IRUD解析センター、③IRUDデータセンターを3つの柱とし、④IRUDコーディネーティングセンターが全体のマネージメントを行うことが特徴です。

研究の成果

 2021年3月終了時点で、全国37の拠点病院・15の高度協力病院・398の協力病院、計450施設がIRUD診断連携に参加しました。また、5施設の解析センター・1施設のデータセンターが設置されています。全体を統括するコーディネーティングセンターは国立精神・神経医療研究センターが担当しました。また21専門分野において臨床専門分科会が構成され、524名の専門家が参加しました。このようにして、希少・未診断疾患の「全国どこにいても・誰でも」診断できる体制が確立しました(図2)。

IRUD拠点体制地図

図2 RUD拠点体制地図・臨床専門部会参加者数

 6年間のIRUDの活動により、6301家系18136名がIRUDに参加し、5136家系の解析が完了し、2247家系で原因が確定しました(図3)。診断率は43.8%です。諸外国の同様のプロジェクトを超える高い診断率が得られました。また657遺伝子で1718種類の変異が同定され、日本の希少・未診断難病の遺伝学的背景が初めて明らかとなりました。この中で1113種類(64.8%)が新規の変異でした。疾患の新しい原因遺伝子や、新たな疾患概念も数多く発見しました。これまで疾患との関連が知られていなかった24遺伝子が新たな原因遺伝子として同定されました。また、新たな疾患概念として4疾患が発見され、12疾患において新たな臨床像が確認されました。

図3 参加家計数の変移

 さらに、人材育成においても大きな成果を達成しました(表1)。2018年度から2020年度にかけて、189名が施設内、60名が他の施設で昇進し、156名が臨床遺伝専門医、79名が認定遺伝カウンセラーの資格を取得しました。

表1 IRUD人材育成

研究の意義と展望

  1. IRUDの最大の意義は、これまでどこの施設にかかってもどんな検査をしても診断がつかなかった2247家系もの患者さんの診断を確定したことです。同定した原因遺伝子は657種類にのぼり、そのうち約半数は1家系のみに認められた極めて希な疾患です。さらに、新しい原因遺伝子や新しい疾患を多数発見したことも顕著な業績です。
  2. このことは、わが国の稀少・未診断難病の遺伝学的背景を初めて多数例で明らかにしたものであり、遺伝学的検査の診療実装などゲノム診療の発展に大きく貢献します。
  3. 診断の確定は最適な診療の第一歩であり、治療に直結し著明な効果が得られた例も報告されています。さらにIRUDの成果を使ってそれ発展させるプロジェクトIRUD Beyondによって、動物モデル、iPS細胞、ゲノム編集などを活用した病態解明・治療法開発の研究が進んでいます。
  4. IRUDのデータは国際標準に準拠するIRUD Exchangeにより国内外の研究者とデータシェアリングされ診断の確定などの成果が出ています。得られたゲノム情報やリソースも公的データベースで登録・保管され、広く活用できるようになっています。
  5. 難病とゲノムについての医療や研究に関わる非常に多くの人材育成に貢献しました
  6. 全国どこにいても、誰であっても未診断に苦しむ患者さんが参加できる体制が構築され、地域医師会も参加して小児から成人に至るまでのスムースな流れ (移行医療transition medicine)が実現しています。
  7. 海外の類似のプロジェクトと比べても極めて低額の予算で大きな成果を上げております。
  8. 稀少・未診断難病の原因遺伝子変異の同定は、類似の症状を呈する非常にコモンな疾患の病態の解明や治療法の開発に役立っています。さらに正常な人体の機能の解明にも重要です。

 IRUDは、全国を網羅する希少・未診断疾患の診療・研究体制を確立し、当初の目標を大きく超える成果を達成して、希少・未診断疾患の診療・研究・教育に大きく貢献しました。しかし、まだまだ未診断に苦しむ多くの方々が多数残っており、IRUDのさらなる発展が期待されます。

おわりに

 IRUDには、医師・ゲノム研究者・遺伝カウンセラー・コーディネーター・データサイエンティスト・研究補助員・事務局担当者など多様な職種が携わっており、第1期IRUDには330名、第2期IRUDには実に750名のメンバーが名を連ねています。今回の研究成果は、すべてのIRUDメンバーと日本医療研究開発機構や厚生労働省、IRUDに参加された2万人近い患者さん・ご家族の協働作業があって初めて達成できたものです (“microattribution”)。ここに深く感謝の意を表し、今後のご協力,ご支援をお願い申し上げます。

原著論文情報

・論文名:Six years’ accomplishment of the Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases: nationwide project in Japan to discover causes, mechanisms, and cures
・著者:Yuji Takahashi1, Hidetoshi Date, Hideki Oi, Takeya Adachi, Noriaki Imanishi, En Kimura, Hotake Takizawa, Shinji Kosugi , Naomichi Matsumoto, Kenjiro Kosaki, Yoichi Matsubara, IRUD Consortium, Hidehiro Mizusawa
・掲載誌:「Journal of Human Genetics」
https://www.nature.com/articles/s10038-022-01025-0
・doi:10.1038/s10038-022-01025-0

研究経費

国立研究開発法人日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業
日本医療研究開発機構(AMED)研究費

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 
IRUDコーディネーティングセンター事務局
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2711(代表)
Email:irud (a)ncnp.go.jp

【報道に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
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