認知行動療法センター 蟹江絢子 客員研究員が 第19回「精神科治療学賞」最優秀賞に選ばれました

認知行動療法センター 蟹江絢子 客員研究員が 第19回「精神科治療学賞」最優秀賞に選ばれました

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2023年3月2日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)

 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)認知行動療法センター 研究開発部 蟹江絢子 客員研究員が、第19回「精神科治療学賞」最優秀賞に選ばれ、2023年1月19日発行の精神科治療学38巻1号の巻頭にて発表されました。
 受賞した論文は、精神科治療学37巻5号(2022年5月発行)に掲載された「女性認知行動療法家としての取り組み―周産期メンタルヘルスの普及、 働き方の改革、最新の治療領域の開拓―」です。

表彰状を持つ蟹江絢子客員研究員の写真
蟹江絢子 客員研究員

 <受賞論文>
蟹江絢子,「女性認知行動療法家としての取り組み―周産期メンタルヘルスの普及、 働き方の改革、最新の治療領域の開拓―」 精神科治療学37巻5号,2022

<研究概要>
本稿では、女性認知行動療法家としての著者自身の経験を題材に、精神科医療における女性医師の特性を明らかにし、女性医師だからこそ担える役割について検討し、3つのテーマに分けて述べている。

1)治療における役割について
 著者の経験を事例として、特に周産期における女性の悩みと、認知行動療法の技法(行動活性化、認知再構成、問題解決法、アサーション、曝露)を用いてその悩みにどう対応したかを示し、女性の悩みの解決方法の一案を提示している。
 例として、「子どもを預けてまで仕事をしていいのか」と考えて罪悪感を感じていたが、認知再構成で自分の考えを客観的に見直した例について述べている。

2)医療現場における役割について
 女性が子育てをしながら医療に参加し続けられる環境をつくるために、現状の困難の可視化とその解決に向けた提案をしている。
 現状の困難としては、子どもの体調により仕事のペースの予測がつきずらく積極的になれないこと、時短勤務のはずが自宅で対応をしてしまうこと、場を乱しているのではないかという不安感をずっと抱えることなどを述べている。

3)女性医師のこれからについて
 妊娠・出産で医療から一時的に離れる可能性のある女性医師だからこそできる考え方や挑戦があると考え、VR(バーチャルリアリティ)という新しいテクノロジーを用いた治療プログラムに挑戦している筆者の一例を紹介している。
 また、デジタルテクノロジーを生かすことで、医療者の知識・経験を医療現場に還元することが可能になっていること、デジタルテクノロジーを活用して、プロダクトを開発し普及することで、飛躍的に多くの患者に治療を提供できると考えていること、デジタルテクノロジーにより地域に支援に出向くことができる可能性等を述べている。

 自らの体験を言語化することで、誰かの心に届くこと、そこから議論が発展していくことを願っていると結んでいる。

<「精神科治療学」編集委員会 選評>
 本論文は、女性精神科医という当事者的側面と、第一線の研究者としての側面とを見事に融和させ、しかも、それをまったく新しい形式で書くという冒険に挑んでいる。当事者としての立場からは、出産や育児をめぐる女性ならではの悩み、あるいは、女性が子育てしながら医療業界でキャリアを積み上げることの煩悶を取り上げ、一方の研究者としての立場からは、そうした自身の悩みや煩悶に対して、認知行動療法家の著者にとっては自家薬籠中の手法――自ら開発したワークシートを用いた振り返りとロールプレイーーを適用し、乗り越えていくプロセスを描写している。
 この前衛的な様式は、一個人の物語を普遍へと押し広げ、効果的な臨床技法の伝達方法となっているばかりか、Webや動画には決して真似のできない、紙媒体ならではの表現の可能性まで予感させてくれる。その意味では、本論文は「作品」と言ってもよい水準に達している。最優秀賞にふさわしい。

<リンク>
選評掲載号(精神科治療学38巻1号(2023年1月発行))
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/bn/38/01index.html
論文掲載号(精神科治療学37巻5号(2022年5月発行))
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/bn/37/05index.html

<所属施設リンク>
NCNP認知行動療法センターホームページ
https://www.ncnp.go.jp/cbt/