神経性やせ症(拒食症)における脳灰白質体積の減少と症状の重症度との関連を明らかに ~大規模共同研究が新たな知見を提供~

神経性やせ症(拒食症)における脳灰白質体積の減少と症状の重症度との関連を明らかに ~大規模共同研究が新たな知見を提供~

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2024年1月22日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
国立大学法人 東北大学、国立大学法人 千葉大学
国立大学法人 京都大学、学校法人 産業医科大学
国立大学法人 九州大学
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神経性やせ症(拒食症)における脳灰白質体積の減少と症状の
重症度との関連を明らかに
~大規模共同研究が新たな知見を提供~

 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所行動医学研究部、東北大学病院心療内科、千葉大学子どものこころの発達教育研究センター、京都大学医学系研究科、産業医科大学医学部、九州大学大学院医学研究院心身医学分野は多施設共同研究として神経性やせ症(拒食症)の脳MRI画像研究を実施しました。この研究では、拒食症における脳灰白質*1体積の変化と症状の重症度との相関を十分な妥当性をもって初めて明らかにしました。特に、これまでのメタアナリシス*2では示されていなかった重症度との関連は、拒食症の理解を深める新たな一歩です。本研究の結果は、日本時間2024年1月22日(月)にNature publishing groupの精神医学系の雑誌である「Molecular Psychiatry」のオンライン版に掲載されました。


背景情報
 拒食症の病態理解のための脳MRI研究は世界中で行われていますが、症例数が不十分であるため、結果の一貫性に疑問が呈されていました。これらの課題を受けて、ENIGMA Eating Disorders Working Group*3は、世界中の研究施設から拒食症の脳MRIデータを集積し、多くの脳領域での脳皮質厚、脳体積の減少を明らかにしていました。しかし、症状との重症度の関連性や、施設間誤差の補正などが不十分であるとの問題が残っていました。
 そこで我々は、日本国内で拒食症治療施設かつ3テスラ脳MRIデータを収集できる施設との共同研究を実施し、2014年5月から2019年2月にかけて日本国内の5つの施設で収集された103名の女性拒食症患者と年齢を統制した102名の健康な女性の脳MRIデータを分析しました。この研究は、これまでのメタアナリシスでは対応できなかったMRI装置の施設間誤差の補正を行い、更に症状の重症度と脳体積の関連も明らかにしました。

研究の新規性
 拒食症の脳MRI画像を100例以上収集した本研究は、メタアナリシスなどを除いた単一研究としては世界最大規模の症例数であり、非常に信頼性の高い結果を得ることができました。特に、症状の重症度と脳体積の関連性の検証は、メタアナリシスでは達成されていない重要な成果です。

主要な発見
 拒食症患者の脳では、過去の研究でも示されていた広範囲にわたる灰白質体積の減少が改めて確認され、特に小脳、中・後部帯状回、補足運動皮質、中心前回の内側部分、視床において顕著でした(図1)。

図1:拒食症患者で健常女性に比べて灰白質量が減少している脳部位

図1:拒食症患者で健常女性に比べて灰白質量が減少している脳部位の脳画像

 腹側前頭前野(眼窩前頭皮質、腹内側前頭前皮質)と後部島皮質の体積が、症状の重症度と正の相関を示しました(図2,3)。

図2:拒食症の重症度と脳灰白質量とが正相関を示した脳部位

図2:拒食症の重症度と脳灰白質量とが正相関を示した脳部位の脳画像

図3:拒食症の重症度と脳灰白質量とが正相関を示した脳部位

図3:拒食症の重症度と脳灰白質量とが正相関を示した脳部位の脳画像

研究の意義
 拒食症は、低体重ややせ願望、食行動異常などの明らかな特徴がありますが、診断は必ずしも容易ではありません。健常者でも見られるやせ願望や、特に病初期に患者自身が自分の状態を認識していないケースが多く、客観的な診断指標(バイオマーカー)の必要性が高まっています。本研究は、拒食症の診断と治療において、脳形態異常を利用する新たな可能性を示しています。脳の特定領域の変化が症状の重症度と関連していることを明らかにし、これが拒食症の客観的なバイオマーカーとしての役割を果たすことが期待されます。

まとめ
 この研究は、拒食症の病態理解と診断法の開発において、新たな知見を提供しています。これまでにない規模と方法論で行われたこの研究は、今後の研究の方向性を示すものと期待できます。
 現在、我々の研究チームは、治療前後の縦断的な脳MRIデータの収集研究へと展開しており、治療による脳形態の変化の検証、更に脳MRIデータを治療予後判定に活用するための研究へと発展させています。

用語説明

*1脳灰白質:脳の表層部に集中する神経細胞体の領域で、思考や感情、意識、運動制御などの高次脳機能を担っています。拒食症の研究でも、灰白質の体積や構造の変化が特に注目され、病態の理解や治療法の開発において重要な指標となっています。

*2メタアナリシス:複数の研究結果を統合し、より強固な統計的結論を導き出す手法です。このアプローチは、拒食症の脳画像研究においても広く用いられ、異なる研究から得られたデータを集約し、拒食症の脳形態異常に関するより包括的な理解を促進します。

*3ENIGMA Eating Disorders Working Group:ENIGMAは、Enhancing Neuro Imaging Genetics through Meta Analysisの略で、脳MRIデータおよび遺伝子データを収集する国際的な共同研究組織です。Eating Disorder Working Groupは、世界中の研究組織から拒食症に関する脳画像データを集約し、メタアナリシスを通じて拒食症の神経生物学的な基盤に関する新たな知見を提供しています。しかし、症状の重症度のデータは含まれておらず、研究施設間のデータ補正が十分でないという問題が指摘されています。

研究支援

本研究成果は、以下の支援によって行われました。

  • 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 戦略的国際脳科学研究推進プログラム(JP19dm307104)
  • 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究H29-難病-一般

論文情報

タイトル:Systematic reduction of gray matter volume in anorexia nervosa, but relative enlargement with clinical symptoms in the prefrontal and posterior insular cortices: a multicenter neuroimaging study

著者:Tose K, Takamura T, Isobe M, Hirano Y, Sato Y, Kodama N, Yoshihara, K Maikusa N, Moriguchi Y, Noda T, Mishima R, Kawabata M, Takakura S, Gondo M, Kakeda S, Takahashi M, Ide S, Adachi H, Hamatani S, Kamashita R, Sudo Y, Matsumoto K, Nakazato M, Numata N, Hamamoto Y, Shoji T, Muratsubaki T, Sugiura M, Murai T, Fukudo S, Sekiguchi A.

雑誌名:Molecular Psychiatry

DOI/URL:https://www.nature.com/articles/s41380-023-02378-4

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神神経医療研究センター精神保健研究所
行動医学研究部 関口 敦
Email:asekiguchi(a)ncnp.go.jp

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国立精神・神経医療研究センター総務課広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL: 042-341-2711(代表) FAX:042-344-6745
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