視神経脊髄炎の重症度・脳萎縮と関連するB細胞の特徴を解明:~血液中のCD11c high B細胞に基づく理解~

視神経脊髄炎の重症度・脳萎縮と関連するB細胞の特徴を解明:~血液中のCD11c high B細胞に基づく理解~

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2024年2月14日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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視神経脊髄炎の重症度・脳萎縮と関連するB細胞の特徴を解明:
~血液中のCD11c high B細胞に基づく理解~

 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部 天野永一朗研究員、佐藤和貴郎室長、神経研究所 山村隆特任部長らの研究グループは、NCNP病院脳神経内科、同放射線診療部、東京医科歯科大学脳神経内科との共同研究により、視神経脊髄炎(NMO)の重症度や脳萎縮との関連を示すB細胞の特徴を明らかにしました。NMOは、病名が示すように視神経と脊髄に炎症を繰り返す自己免疫疾患ですが、実際には多数の脳病巣を伴い、脳萎縮や高次脳機能障害を呈する場合が少なくありません。しかしその背景にある免疫病態については未解明でした。本研究では、近年、自己抗体の産生に関わる病原性細胞として注目されているCD11chighB細胞(注1)とよばれるB細胞がNMO患者の血液中で増加していること、さらにB細胞の中でCD11chighB細胞が占める割合は重症度(EDSS)や、脳萎縮と密接に関連していることを明らかにしました。NMOにおける脳萎縮の病態の一端が明らかになったことで、脳萎縮の進行を予防するために、CD11chighB細胞が関与する慢性炎症を制御することが有効である可能性が示されました。
 この研究成果は、2024年2月13日16時(米国東部時間、日本時間:2024年2月14日6時)に、米国の神経科学誌の『Neurology: Neuroimmunology and Neuroinflammation』オンライン版に掲載されました。

研究の背景

 NMO(注2)は、免疫系が自身の身体を攻撃する自己免疫疾患の一つで、抗アクアポリン4抗体(抗AQP4抗体)とよばれる自己抗体の産生や抗体産生細胞であるB細胞の異常を特徴とする疾患です。NMOでは、視神経に伴う急激な視力の低下、脊髄炎による麻痺や感覚障害が出現しますが、これらの急激な症状の悪化が何度も「再発」し、神経障害の蓄積によって病状が進行するという特徴があります。当研究部では、再発時に抗AQP4抗体を産生するB細胞の一種、プラズマブラストが増加することを先行研究で明らかにし(Chihara et al. PNAS, 2011)、プラズマブラストが抗AQP4抗体を作るときにはIL-6が重要であること、IL-6を阻害することで再発を予防できることを示しました(Yamamura et al. NEJM, 2019)。
 一方で、再発と再発の間の時期を「寛解期」と呼びますが、寛解期の免疫病態は不明な点が多いのが現状です。従来、NMOの寛解期には病態・神経障害の悪化はないと考えられてきましたが、寛解期でも脳萎縮や高次脳機能障害が進行し得ることが近年の研究で分かってきました。これらの知見は、NMOの寛解期に慢性炎症が持続している可能性や、脳萎縮が進行する症例に何らかの免疫学的特徴が存在する可能性を示唆していますが、そのメカニズムは十分に明らかになっていませんでした。

研究の内容

 国立精神・神経医療研究センター病院に通院中の、寛解期の抗AQP4抗体陽性NMO患者45名と、健常者30名の全血から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、フローサイトメトリーで解析を行いました。さらに、比較対象として28名の寛解期の再発寛解型多発性硬化症(RRMS)(注3)患者と、ステロイドを内服中の15名のRRMS患者の解析を行いました。また、血液検体の採取から1年以内に脳MRIを撮像している患者26名を対象に、解析ソフト(FreeSurfer 6.0, LST toolbox version 3.0.0)を用いて全脳、白質、灰白質の体積とT2/FLAIR高信号病変の体積を算出しました。これらの体積は、頭蓋骨の大きさの個人差を考慮し、頭蓋内用量(estimated total intracranial volume: eTIV)で補正を行いました。

B細胞亜分画の頻度

 血液中のB細胞はCD11cの発現の量に応じて、CD11chigh, CD11cmid, CD11c-の3分画に分かれます。NMO患者では、B細胞中のCD11chighB細胞の頻度が健常者や類縁疾患であるRRMS患者と比較して増加していることがわかりました(図1)。多くの患者がステロイドや免疫抑制剤による治療を受けていましたが、治療薬の量や種類による違いはみられませんでした。次に、CD11chighB細胞の病態への寄与を解明するために、NMO患者の過去の臨床情報とMRI検査による脳画像との関連について調べました。

臨床的指標との相関のグラフ

 まず臨床像との関連を評価したところ、B細胞の中でCD11chighB細胞の占める割合は、重症度指標(Expanded Disability Status Scale: EDSS)が高い症例、過去の再発回数が多い症例、罹病期間が長い症例でより増えていることが分かりました。しかし疾患活動性の指標の一つである過去1年間の再発率(ARR)や年齢との関連は認められませんでした (図2)。
次に脳MRI画像との関連を調べると、B細胞の中でCD11chighB細胞がより増えている症例では全脳、白質および灰白質体積が小さい、つまり脳萎縮が進んでおり、病変の体積も大きいことが分かりました (図2)。
 次に、NMO患者のB細胞の中でCD11chighB細胞が増加している理由を探るために、B細胞が成熟する環境を整えて抗体産生細胞に分化するのを助けるTfh(T-follicular helper)細胞とTph(T-peripheral helper)細胞(注4)に着目しました。Tfhはリンパ濾胞内でB細胞の分化に関わりますが、Tphは炎症部位に遊走してリンパ濾胞外でB細胞の分化を促します。CD11chighB細胞が出現するメカニズムに関して、過去の研究報告では、Tph細胞からインターフェロンγが作られ、B細胞と相互作用することが重要であることが示されています。

NMO患者のメモリーth細胞の特徴を示すグラフ

 そこで、NMO患者のメモリーTh細胞(=成熟したTh細胞)中のTph細胞の割合を調べたところ、健常者よりもNMOで増加していることが分かりました(図3)。一方で、Tfh細胞は増加していませんでした。Tph細胞の中でも、インターフェロンγを産生するTph細胞は「Tph-1細胞」と呼ばれますが、NMO患者のCD11chighB細胞はTph-1細胞の割合と相関している(図3)ことが分かりました。以上から、NMOの病態において、CD11chighB細胞の増加にTph細胞、その中でもTph-1細胞が関わっている可能性が推察されました。

 以上の結果をまとめると、NMOにおける末梢血のCD11chighB細胞の割合は、再発の頻度よりも、罹病期間や過去の総再発回数といった長期間の炎症の蓄積を反映していると考えられました。さらに、脳萎縮との関連が強いことが明らかとなり、NMOの脳内の慢性炎症にCD11chighB細胞が関与している可能性が示唆されました。また、CD11chighB細胞が増える機序として、Tph-1細胞が関与している可能性が考えられました。

研究の意義・今後期待される展開

 CD11chighB細胞は、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群、関節リウマチといった自己免疫疾患において増加していることが近年注目されてきましたが、NMOにおける意義は今まで不明でした。また、NMOの寛解期における免疫学的特徴が、どのような臨床的特徴を反映しているのか、十分に分かっていませんでした。本研究は、NMOのB細胞の特徴としてCD11chighB細胞が増えているということ、そしてB細胞の中でCD11chighB細胞が占める割合がNMOの慢性病態や脳萎縮を特徴づけることを初めて明らかにしました。NMOにおける脳萎縮の進行を予防するために、CD11chighB細胞の介在する慢性炎症を制御することが重要である可能性を示唆します。今後は、長期間の前向き研究でNMOの臨床像の経時的変化とCD11chighB細胞が増加するタイミングの関係を明らかにすることで、CD11chighB細胞を標的とした治療介入の有効性を検討することができるようになると考えられます。

用語解説

注1:CD11chighB細胞
B細胞は、本来は病原体などの外来抗原に対する防御のために抗体を産生する役割を担うリンパ球の一種である。CD11chighB細胞は、もともと加齢マウスで増加するB細胞として同定され、Age-Associated B cell (ABC)と呼ばれてきたが、近年では自己抗体の産生、抗原提示、そして炎症性サイトカインの産生を介して自己免疫性疾患や慢性炎症性疾患の病態に関与することが知られている。ABCはCD11cとT-betの発現が高く、CD21やCXCR5の発現が低いといった特徴を有している。

注2:視神経脊髄炎
視神経脊髄炎は、抗AQP4抗体がアストロサイトに沈着し、補体の活性化を介してアストロサイトが障害される自己免疫疾患である。視神経、脊髄を中心に、脳室周囲や大脳白質が障害され再発と寛解を繰り返し、1回の再発により重篤な神経障害(失明や麻痺)を呈することがある。再発を予防するためにステロイド、免疫抑制剤に加え、IL-6受容体阻害薬や抗CD19抗体、補体阻害薬といった分子標的薬を用いた長期的な治療を要するため、患者ごとの症状や経過の特徴に応じた個別化医療が今後の課題である。日本の有病率は5.4人/10万人(2017年全国臨床疫学調査)とされる。

注3:再発寛解型多発性硬化症
多発性硬化症は中枢神経の脱髄(ミエリンを構成するオリゴデンドロサイトの障害)を呈する自己免疫疾患だが、視神経脊髄炎と異なり、発症に関与する特定の自己抗体は明確にはなっていない。多発性硬化症は再発と寛解を繰り返す再発寛解型(relapse remitting multiple sclerosis: RRMS)、再発間に慢性炎症による神経変性が進行する二次進行型(secondary progressive: MS)、明らかな再発のエピソードがなく神経障害が進行する一次進行型(primary progressive: MS)の3病型に大別されるが、RRMSが最も多い。

注4:Tph(T-peripheral helper)細胞、Tfh(T-follicular helper)細胞
B細胞が分化・成熟し、最終的に抗体産生細胞やメモリーB細胞になる過程に関与するTh細胞。Tph細胞はCXCR5が陰性でリンパ濾胞外で、Tfh細胞はCXCR5が陽性でリンパ濾胞内に分布するという特徴がある。末梢血中を循環しているTph細胞とTfh細胞はPD-1, ICOSを高発現しており、それぞれが図3のようにCXCR3とCCR6の発現に基づいてIFNγを産生するTph1/Tfh1、IL-4を産生するTph2/Tfh2、IL-17を産生するTph17/Tfh17、IFNγ/IL-17のいずれも産生するTph17/Tfh17に大別される。

原著論文情報

  • タイトル:CD11chighB cell expansion is associated with severity and brain atrophy in Neuromyelitis Optica 
  • 著者名:Amano, E., W. Sato, Y. Kimura, A. Kimura, Y. Lin, T. Okamoto, N. Sato, T. Yokota, and T. Yamamura
  • 雑誌:Neurology: Neuroimmunology and Neuroinflammation

助成金

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
・日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業
・日本学術振興会・科学研究費補助金
・国立精神・神経医療研究センター・精神・神経疾患研究開発費

お問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 
神経研究所 免疫研究部
部長 山村 隆
TEL:042-341-2711
FAX:042-346-1753
E-mail:yamamura(a)ncnp.go.jp
室長 佐藤 和貴郎
E-mail:satow(a)ncnp.go.jp

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係
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