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コミュニケーションは 「二人の間」 で生まれる ― 自閉スペクトラム症モデルマーモセットの視線・応答・距離を同時解析 ―

プレスリリース
神経研究所

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2026年11月4日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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コミュニケーションは「二人の間」で生まれる
―自閉スペクトラム症モデルマーモセットの視線・応答・距離を同時解析―


 人と目を合わせるのは苦手。でも、相手に関心がないわけではない。むしろ、相手から見られると、強い緊張や怖さを感じてしまう――。自閉スペクトラム症(自閉症(※1))のある人の中には、こうした経験を語る人がいます。相手の視線に敏感であることと、目を合わせにくいこと。この2つは、どのようにつながっているのでしょうか。
 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所微細構造研究部の一戸紀孝部長、NCNP神経研究所・東京農工大学大学院連合農学研究科の中村月香研究員らの研究グループは、自閉症モデルマーモセットを用いてこの問いに迫りました。
 AIによる画像解析技術で2頭の視線と距離を同時に追跡し、互いの行動がどのように影響し合うのかを調べました。その結果、自閉症モデルマーモセットは、自分から一方的に相手を見ることは少ない一方で、相手から見られると、1秒以内に素早く視線を返す割合が高いことなど、下記の事象が分かりました (図1)。
 
図1見られると見返す。近いと、続かない。相手も、よく見る。

 本研究は、自閉症の社会的コミュニケーションの難しさを、本人だけの問題ではなく、二者のやり取りの中に現れる特徴として捉える新たな視点を示しています。それは、自閉症のある人に一方的に変化を求めるのではなく、相手の接し方や距離、周囲の環境も含めて支援を考えることにもつながると期待されます。
 本研究成果は、2026 年 10月 28 日(水)に、国際学術誌 「Scientific Reports 」に掲載されました。

研究の背景

 私たちは日常の会話で、相手の表情や視線を読み取りながら、話すタイミングや振る舞いを自然に調整しています。誰かが冗談を言ったとき、ちょうどよいタイミングで笑えば会話は弾みますが、ほんの少し間がずれるだけで、互いに小さな違和感が残ります。これまでの自閉症研究の多くは、この「間」の片側だけを見てきましたが、近年は、自閉症のコミュニケーションの難しさを、本人だけの問題ではなく、特性の異なる人同士の間に生じるずれとして捉える「二重共感問題(double empathy problem)」(※2)という考え方が注目されるようになってきました。二人の脳活動を同時に計測する研究でも、自閉症のある人とやり取りするとき、定型発達の相手の側の脳活動にも変化が現れることが報告されています。このように、コミュニケーションを理解するには、一人の行動だけでなく、相手の反応によって互いの行動がどのように変化するかを捉えることが重要です(図2)。
 そこで研究グループが注目したのが、小型霊長類のコモンマーモセット(※3)です。ニホンザルなどのマカクザルでは、相手の目をじっと見ることは威嚇の意味をもちます。一方、マーモセットは穏やかに目を合わせ、相手の動きに合わせて体の向きや距離を細かく調整します。視線と距離が一体となったやり取りを観察するのに適した動物です。
 本研究では、2頭のマーモセットが相手に見られたときにどう応じるのか、そして距離によって見つめ合いがどう変わるのかを探りました。
 
図2 なぜ二人を調べるのか

研究内容

 研究グループは、初対面の2頭のマーモセットが出会う場面を観察しました。一方は四角いスペースに、相手役は透明な円筒に入り、防音ブースの中で向かい合います(図3-A)。互いの姿や声は伝わりますが、直接触れ合うことはできません。最初は目隠し板で相手の姿を隠しておき、実験開始とともに板を引き上げます。初めて相手の姿が見えた瞬間からの5分間を、天井のカメラで真上から記録しました。対象としたのは、胎児期にバルプロ酸(VPA)(※4)に曝露された自閉症モデルマーモセット10頭と、曝露されていない対照マーモセット10頭(各群雌雄5頭ずつ)です。相手役はいずれも初対面の対照マーモセットとし、「自閉症モデル–対照」ペアと「対照–対照」ペアを比べました。各個体は数か月の間隔をあけて毎回異なる相手と3回ずつ出会い、観察は延べ60回行われました。映像の解析には、AIを用いた姿勢推定技術DeepLabCut(※5)を使いました。マーモセットは眼球の動きが比較的小さく、頭ごと相手の方を向くため、頭の向きから相手を見ているかどうかを推定できます。そこで、1秒間30コマの映像から額と左右の耳の3点をAIで追跡し、2頭それぞれの視線の向きと、互いの距離を同時に計測しました(図3-B)。どちらが先に相手を見たのか。見られた側は、1秒以内に見返したのか。そして、そのとき2頭はどれくらい離れていたのか。初対面の5分間に二者の間で生まれるやり取りを、1コマずつ読み解いていきました(図3-C)。
 
図3 AIで2頭のやり取りを追う

研究結果

1.一方的に相手を見ることは少ない
 相手が別の方向を向いているときに、自分から相手へ視線を向ける。このような「一方的な視線」が占める割合は、自閉症モデルマーモセットでは対照群より低いことが分かりました(図1①)。この結果だけを見ると、相手への関心が低いようにも思われます。しかし、相手から視線を向けられたときには、これとは異なる特徴が現れました。

2.相手から見られると、すぐに視線を返す
 相手が自分の方を向いてから1秒以内に、こちらも相手へ視線を向ける。この「見返し」の割合は、自閉症モデルでは対照群より高くなっていました(図1②)。また、自閉症モデルは相手を見る回数が対照群より多かった一方、見ていた時間の合計には差がありませんでした。つまり、自閉症モデルは相手を長く見続けていたわけではありません。自分から一方的に見ることは少なくても、相手の視線には積極的に応じていたのです。両群の違いは、単に「どれくらい見るか」ではなく、「いつ、どのような状況で見るか」に現れていました。

3.見つめ合いは多いが、近い距離では続きにくい
 自閉症モデルを含むペアでは、2頭が同時に互いの方を向く「見つめ合い(相互注視)」が、対照ペアより頻繁に生じていました。見つめ合う回数だけでなく、観察時間に占める見つめ合いの割合も高くなっていました。さらに、自閉症モデルを含むペアは、対照ペアより互いに近い距離を保っていました。ただし、この距離の違いは主に見つめ合っていない時間帯に認められ、見つめ合っている間の距離には群間の差がありませんでした。ところが、出会いごとに詳しく比較すると、別の特徴が浮かび上がりました。自閉症モデルを含むペアでは、相手との距離が近いほど、かえって目を合わせている時間が少なくなる傾向が見られました。対照ペアでは、このような関係は認められませんでした(図1③)。見つめ合いは頻繁に生じる。それにもかかわらず、近い距離では見つめ合いを保ちにくい。この一見矛盾するような特徴が、自閉症モデルを含むペアで明らかになりました。ただし、今回明らかになったのは、出会いごとの距離と見つめ合いの割合との関係です。近づいた瞬間に視線をそらすことを直接示したものではありません。また、恐怖や不快感そのものを測定したわけではなく、こうした特徴が生じる理由については、今後の検討が必要です。

4.相手の視線行動にも変化が現れる
 さらに興味深いことに、変化していたのは自閉症モデルの行動だけではありませんでした。自閉症モデルと組になった対照マーモセットも、対照同士で組んだ場合に比べて、相手を見る回数が増えていたのです(図1④)。相手役には、いずれの条件でも、同じ候補の中から同じ基準で選ばれた対照マーモセットを用いています。それでも、向き合う相手によって、その視線行動に違いが現れました。社会的なやり取りの特徴は、一方の個体の行動だけでは捉えきれません。相手もまた、そのやり取りの中で行動を変えているのです。この発見は、コミュニケーションを個体ごとの能力や特性だけでなく、二者の相互作用として理解することの重要性を示しています。

本研究の意義と今後の展望

 「自閉症の人は、他者に関心がない」。本研究は、このイメージに別の見方を示します。自閉症モデルは相手の視線に素早く応じる一方、近い距離では見つめ合いを保ちにくいという特徴を示しました。社会的なやり取りの難しさは、関心の乏しさだけでなく、「二人の間で生じるずれ」として捉え直せるのかもしれません。相手の行動まで変わっていたことも、一人の行動だけでは見えない大切な発見です。臨床的には、視線への応答や距離といった二者の指標をAIでとらえることが、本人だけでなく、相手や環境との関係も含めた新しい評価につながる可能性があります。支援においても、無理に目を合わせるよう求めるのではなく、距離や接し方を工夫することで、本人が持つ「応じる力」を生かせるかもしれません。
 今後は、神経活動やストレスに関わる生理指標、腸内細菌叢などの体の状態も組み合わせ、二者の協調がどのように生まれるのか、その仕組みに迫ります。そして、保たれている「応じる力」を生かした、メカニズムに基づく新たな治療や支援の開発をめざします。
コミュニケーションは、二人でつくるもの。この視点が、自閉症のある人もない人も、互いに心地よく関わり合える社会への一歩になると考えています。

用語の説明

(※1)自閉スペクトラム症(ASD):対人コミュニケーションや社会的なやり取りの特徴、興味・行動の偏りなどが見られる神経発達症です。その現れ方や程度には大きな個人差があります。
(※2)二重共感問題(double empathy problem):異なる特性や経験をもつ人同士のコミュニケーションの難しさを、一方の共感能力の不足だけでなく、相互理解のずれとして捉える考え方です。
(※3)コモンマーモセット:南米原産の小型霊長類で、家族が協力して子育てをするなど、豊かな社会性を持つ動物です。視線や多様な鳴き声を使って仲間とコミュニケーションをとり、相手と目を合わせたり、互いの距離を調整したりする行動も見られます。このため、二者の間で生まれる社会的なやり取りを調べる研究に適しています。
コモンマーモセットの写真

(※4)バルプロ酸(VPA):てんかんや双極性障害などの治療に用いられる薬剤。妊娠中の曝露と出生児の神経発達への影響との関連が知られており、動物研究ではASDに関連する特徴を調べるモデルの作製に使用されます。
(※5)DeepLabCut:AIを用いて、映像中の動物の体の部位を自動的に検出・追跡する技術です。本研究では、マーモセットの額と左右の耳の位置から頭の向きを推定し、2頭がいつ相手の方を向いたのか、そのときどのくらい離れていたのかを解析しました。

原著論文情報

・論文名:Heightened gaze responsiveness and mutual gaze instability at close distances characterize dyadic coordination in a marmoset model of autism
・著者名 Madoka Nakamura, Tomoko Sato, Tohru Kurotani, Kazuhisa Sakai, Anna Hadjiev, Shuntaro Sasai, Koki Mimura, Nobuyuki Kawai, Tsuyoshi Shimmura, Noritaka Ichinohe
・掲載誌: Scientific Reports
・DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-026-76138-z

研究グループ

・国立精神・神経医療研究センター
神経研究所微細構造研究部 一戸紀孝、中村月香、黒谷亨、境和久、佐藤知子
神経研究所疾病三部 三村 喬生
・東京農工大学 農学部 生物生産学科  新村 毅
・名古屋大学 大学院情報学研究科 心理・認知科学専攻 認知科学 川合伸幸
・株式会社 アラヤ 笹井 俊太朗、Anna Hadjiev

研究経費

 本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(2-7)、日本医療研究開発機構(課題名:行動シラバスに基づく霊長類の社会性評価プラットフォームの開発、社会距離ダイナミクスの多種多階層制御機構)、JST CRONOS(JPMJCS24K7)、日本学術振興会科学研究費助成事業(21H04421)の支援を受けて実施されました。

 
>神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php

>微細構造研究部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_mic/

>疾病研究第三部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r3/

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国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部
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