2026年3月13日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
重症精神障害をもつ人の不安感を改善
訪問支援型チームによる認知行動療法がコストを増やさずに効果があることを実証
― 地域での心理療法が実装可能と示した初のクラスターRCT研究 ―
訪問支援型チームによる認知行動療法がコストを増やさずに効果があることを実証
― 地域での心理療法が実装可能と示した初のクラスターRCT研究 ―
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部 佐藤さやか室長らの研究グループは、地域で暮らす不安症状を抱える重症精神障害をもつ人に対し、訪問支援型ケースマネージメントチームが行う心理療法がコストを増やすことなく不安感を改善することを、クラスターランダム化比較試験によって明らかにしました。
この研究成果は、2026年3月13日(金)9時(日本時間)に国際学術誌『Psychological Medicine』に掲載されました。
この研究成果は、2026年3月13日(金)9時(日本時間)に国際学術誌『Psychological Medicine』に掲載されました。
ポイント
・訪問支援型ケースマネジメントに曝露療法(※1)に基づく認知行動療法(exposure-based Cognitive Behavior Therapy: ebCBT)を付加するこ
とで、訪問支援単独と比べて利用者の不安感が有意に改善
・全般的機能、パーソナルリカバリーの程度、生活の質の一部も改善
・訪問支援型ケースマネジメント単独の支援と同等のコストで効果が高い可能性
とで、訪問支援単独と比べて利用者の不安感が有意に改善
・全般的機能、パーソナルリカバリーの程度、生活の質の一部も改善
・訪問支援型ケースマネジメント単独の支援と同等のコストで効果が高い可能性
研究の背景
統合失調症などの重症精神疾患をもつ人の約40%は、日常生活に支障をきたすレベルの不安感を抱えています1)。不安は生活の質の低下や社会参加の制限と関連し、回復の妨げとなる重要な課題です。
暴露療法(※1)を含む認知行動療法は不安の改善に有効とされていますが2)、従来は主にうつ病や不安症をもつ人が対象とされ、なおかつ医療機関内で実施されることが多く、通院が困難な重症精神障害をもつ人には十分に提供されていませんでした。
訪問支援型ケースマネジメントの1つである包括的地域生活支援プログラム(assertive community treatment: ACT)(※2)は重症精神障害をもつ人の地域支援に有効ですが3)、ACTに心理療法を組み込んだ効果検証研究はほとんどありませんでした。このように重症精神障害をもつ人は心理療法を受ける機会が限られており、支援の選択肢が不足していることが課題でした。
<参考文献>
1)Braga, R. J., Reynolds, G. P., & Siris, S. G. (2013). Anxiety comorbidity in schizophrenia. Psychiatry Research, 210(1), 1–7.
2)Bhattacharya, S., Goicoechea, C., Heshmati, S., Carpenter, J. K., & Hofmann, S. G. (2023). Efficacy of cognitive behavioral therapy for anxiety-related disorders: A meta-analysis of recent literature. Current Psychiatry Reports, 25(1), 19–30.
3)Dieterich, M., Irving, C. B., Bergman, H., Khokhar, M. A., Park, B., & Marshall, M. (2017). Intensive case management for severe mental illness. Cochrane Database of Systematic Reviews, (1), Article CD007906.
暴露療法(※1)を含む認知行動療法は不安の改善に有効とされていますが2)、従来は主にうつ病や不安症をもつ人が対象とされ、なおかつ医療機関内で実施されることが多く、通院が困難な重症精神障害をもつ人には十分に提供されていませんでした。
訪問支援型ケースマネジメントの1つである包括的地域生活支援プログラム(assertive community treatment: ACT)(※2)は重症精神障害をもつ人の地域支援に有効ですが3)、ACTに心理療法を組み込んだ効果検証研究はほとんどありませんでした。このように重症精神障害をもつ人は心理療法を受ける機会が限られており、支援の選択肢が不足していることが課題でした。
<参考文献>
1)Braga, R. J., Reynolds, G. P., & Siris, S. G. (2013). Anxiety comorbidity in schizophrenia. Psychiatry Research, 210(1), 1–7.
2)Bhattacharya, S., Goicoechea, C., Heshmati, S., Carpenter, J. K., & Hofmann, S. G. (2023). Efficacy of cognitive behavioral therapy for anxiety-related disorders: A meta-analysis of recent literature. Current Psychiatry Reports, 25(1), 19–30.
3)Dieterich, M., Irving, C. B., Bergman, H., Khokhar, M. A., Park, B., & Marshall, M. (2017). Intensive case management for severe mental illness. Cochrane Database of Systematic Reviews, (1), Article CD007906.
曝露療法に基づく認知行動療法とは?
認知行動療法は支援をうける人の課題に合わせてさまざまな支援技法を組み合わせて実施します。「曝露療法に基づく認知行動療法」は生活の中で不適切に学習された不安感の低減を目的とした支援技法のパッケージです。具体的には不安感が生じる場面とその前後の支援対象者と環境のアセスメント、ケースフォーミュレーション(※3)、不安感に関する心理教育、不安を感じる場面のリスト作成、リストに沿って実施する暴露療法が含まれています。
研究の概要
本研究では、日本国内のACTチーム15チームを対象に無作為割付を行い、下記の2群を比較しました。
・介入群:ACTの通常支援に加えて曝露療法に基づく認知行動療法(ebCBT)を提供する群(50名)
・対照群:ACTの通常支援のみの群(43名)
介入群では、ACTスタッフが公認心理師による研修と2か月に1回の継続的スーパービジョン(「支援の振り返り、助言)を受け、通常支援に加えてebCBTを実施しました。ebCBTの実施期間は12か月、終了後6か月(ebCBT の実施開始から18か月後)に追跡調査を行いました。
この結果、主要な効果指標であった一般的な不安の程度(特性不安)と他者から受ける評価に対する不安(他者評価不安)について12か月後、18か月後ともに介入群が有意に改善していました。加えて全般的機能、パーソナルリカバリーの程度、社会的関係や環境
に関連する生活の質も介入群のみ有意に改善していました。さらにコストについて有意差はありませんでしたが、対照群の入院者がやや多かったために介入群のほうが1年間に生じたコストが相対的に低額でした。
・介入群:ACTの通常支援に加えて曝露療法に基づく認知行動療法(ebCBT)を提供する群(50名)
・対照群:ACTの通常支援のみの群(43名)
介入群では、ACTスタッフが公認心理師による研修と2か月に1回の継続的スーパービジョン(「支援の振り返り、助言)を受け、通常支援に加えてebCBTを実施しました。ebCBTの実施期間は12か月、終了後6か月(ebCBT の実施開始から18か月後)に追跡調査を行いました。
この結果、主要な効果指標であった一般的な不安の程度(特性不安)と他者から受ける評価に対する不安(他者評価不安)について12か月後、18か月後ともに介入群が有意に改善していました。加えて全般的機能、パーソナルリカバリーの程度、社会的関係や環境
に関連する生活の質も介入群のみ有意に改善していました。さらにコストについて有意差はありませんでしたが、対照群の入院者がやや多かったために介入群のほうが1年間に生じたコストが相対的に低額でした。
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臨床的意義
本研究の意義は以下の3点です。・訪問支援型ケースマネジメントに認知行動療法を組み合わせることは、医療経済的負担を増やさず、臨床的/主観的に有効であることの可能性を示唆
・公認心理師が継続的なスーパービジョンを実施することで非心理職(看護師、精神保健福祉士など)でも効果的介入が可能
・不安症への認知行動療法が重症精神障害の不安感の改善にも応用可能であることを実証
今後の展望
今後、他地域や他国で再現性が確認されれば、地域精神保健における心理療法の導入モデルとして普及する可能性があります。診療報酬上も評価される項目が拡大する中、保健医療領域における公認心理師の活動をさらに後押しする根拠となることが期待されます。他方、本研究は評価者盲検化(※4)の制約等があり、今後さらなる検証が期待されます。
論文情報
論文名:Exposure-based cognitive behavioral therapy delivered by assertive community treatment teams for severe mental illness with symptoms of anxiety: a cluster randomized controlled trial掲載誌:Psychological Medicine
著者:佐藤さやか、松長麻美、小川亮、水野雅之、菊池安希子、熊野宏昭、山口創生、藤井千代
DOI:https://doi.org/10.1017/S0033291726103365.
用語解説
※1暴露療法不安や恐怖を感じる物事や場面にあえて身をさらす(暴露する)ことで不安や恐怖に慣れ、つらさや不快感を和らげることを目的とした支援技法。不安場面のリストを作り、不安度の低い場面から順番に暴露していくことが多い。
※2 包括的地域生活支援プログラム(assertive community treatment: ACT)
重症精神障害をはじめとする支援ニーズの高い人を対象に、多職種チームが地域で支援を提供するアウトリーチ型ケースマネジメント
※3 ケースフォーミュレーション
アセスメントで得られた情報を一定の理論を用いて整理し、支援をうける人の課題について原因や維持要因として考えられることを説明し、改善に向けた取り組みに役立つ情報を提供すること
※4 評価者盲検化
研究参加者の属する群が、介入群なのか、対照群なのかを評価者に隠して評価を実施すること。臨床研究では実施が推奨される手続きだが、本研究のような心理社会的介入の効果検討では、研究開始後に研究参加者自身がどちらの群に属しているか認識していることが多く、盲検化が難しい。
参考リンク
精神保健研究所
https://www.ncnp.go.jp/mental-health/index.php
地域精神保健・法制度研究部
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/




