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筋ジストロフィー症状再現の世界最小マイクロミニ・ブタモデル -筋ジストロフィーの新しい治療法開発につながる世界初の成果-

プレスリリース
神経研究所

NCNP、九州大学、静岡県畜産技術研究所のロゴマーク




 
2024年5月21日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
静岡県畜産技術研究所
国立大学法人九州大学
印刷用PDF(297KB)

                                                                       
                                           
筋ジストロフィー症状再現の世界最小マイクロミニ・ブタモデル
-筋ジストロフィーの新しい治療法開発につながる世界初の成果-


国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所の今村道博研究員、青木吉嗣部長(遺伝子疾患治療研究部)、静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センターの大竹正剛科長、九州大学大学院医学研究院の小野悦郎名誉教授、東京大学医科学研究所の木村公一特任講師らの共同研究チームは、最先端のゲノム編集技術による胚操作により、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の骨格筋および心筋の症状を再現する世界最小のマイクロミニ・ブタモデルを創出しました。このモデルは、DMDの病態の更なる解明や治療法開発に役立つことが期待されます。

研究成果は、Natureの姉妹紙であり、オープンアクセス・ジャーナルの「Communications Biology」に、2024年5月3日にオンライン掲載されました。

背景

デュシェンヌ型筋ジストロフィー1は、ジストロフィン遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の筋疾患で、約4,000人に1人の割合で男の子に見られます。この病気では、筋肉が壊れやすくなり、次第に弱くなっていきます。子どもが5歳頃になると筋力の低下が始まり、12歳頃には歩くのが難しくなり、30代後半には心臓や呼吸の問題が大きくなります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新しい治療法を開発するため、これまで、マウスやラット、イヌなどのモデル動物を使った実験が行われてきました。これらの実験は重要な情報を提供してくれますが、ヒトとの違いが大きいため、ヒトの病気をより正確に再現できる動物モデルの開発が求められていました。
ブタは、臓器の配置や構造、そして免疫の仕組みなど、ヒトと似ている点が多いため、非臨床研究において有望な動物モデルとされています。しかし、ブタはヒトよりはるかに大きいため、多量の薬が必要になったり、飼育環境を整備しなければならず、長期間の研究には適していません。この問題を解決するために、ミニブタと呼ばれるより小さなブタが使われ始めましたが、それでも成長すると約100kgにもなるため、特別な飼育施設を必要とします。さらに、ミニブタで筋ジストロフィーモデルを作ると出生後すぐに死亡することが多く、生き延びてもほとんどが3ヶ月以内に亡くなっていました。これらの問題が解決されれば、ブタはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの研究において理想的なモデルになりえます。今回私たちは、世界で最も小さい実験用ブタであるマイクロミニ・ブタ2に注目し、筋ジストロフィーモデルブタの作製に取り組みました。

ゲノム編集により作成されたDMDのマイクロミニ・ブタモデルの写真と、骨格筋の編成を示す筋画像


 

概要

この研究では、CRISPR/Cas9を用いた先進的なゲノム編集技術を用いて、A.ジストロフィン分子種の変異の図、B.ジストロフィンのウエスタンブロット解析の結果写真、C.骨格筋と心筋の細胞膜からDp427タンパク質が消失している様子の筋画像マイクロミニ・ブタのジストロフィン遺伝子のエクソン23に11塩基の欠失を作りました。この結果、このブタの骨格筋や心筋の細胞膜からは、最も大きなジストロフィンの分子種であるDp427タンパク質が消失します(図a参照)。ジストロフィンのウエスタンブロット解析では、骨格筋と心筋からDp427タンパク質がなくなっている一方で、短いジストロフィンの分子種であるDp71タンパク質は残っているのが分かりました(図b参照)。また、ジストロフィンの免疫染色では、骨格筋と心筋の細胞膜からDp427タンパク質が消失していることが確認され、これはヒトのデュシェンヌ型筋ジストロフィーと同様のパターンを示しています(図c参照)。このマイクロミニ・ブタモデルは、骨格筋の萎縮と筋力の低下、心筋症、血中クレアチニン値が高値、運動機能の低下など、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に見られる症状を非常に良く再現していました。

このマイクロミニ・ブタモデルの注目すべき特徴は、ブタでありながら非常に小さいため、中型実験動物の施設で容易に飼育できること、そして、早死にしないことです。生後3ヶ月から6ヶ月の間に亡くなるものがいるものの、生後すぐに亡くなることはなく、1年以上生きる個体も多数いる点が、以前のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのミニブタモデルとは大きく異なります。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの新しいマイクロミニ・ブタモデルは、以前のブタモデルよりも寿命が長く、骨格筋と心筋の状態が適切に重症化するため、病気のメカニズムをより深く理解することができます。

今後の展望

私たちは、新しいデュシェンヌ型筋ジストロフィーのマイクロミニ・ブタモデルの有用性を明らかにするため、自然歴や病態の研究を進めています。このモデルは非臨床研究に非常に役立つ可能性があり、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療法開発を加速させることが期待されます。
 

用語の説明

1.    デュシェンヌ型筋ジストロフィー
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、男児に発症する、もっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィンタンパク質)の遺伝子に変異が起こることで、正常なタンパク質が作れなくなり、筋力が低下してやがて死に至る重篤な疾患です。現在、その進行を遅らせる目的でステロイド剤による治療が行なわれていますが、それ以外に有力な治療法は存在せず、新たな治療法の開発が必要とされています。

2.    マイクロミニ・ブタ = マイクロミニピッグ
マイクロミニピッグは、富士マイクラ株式会社がポットベリー種を始祖として国内で繁殖•固定化した実験用ブタで、生後6ヵ月で体重は10kg未満、体長も80cm未満と超小型のため、犬用ケージで飼育が可能です。2年齢の成獣でも25kg程度と一般のミニブタの半分以下の大きさです(性成熟は雄が4.5ヶ月、雌が8ヶ月齢)。そのため扱いが容易で薬物の投与量も抑えることができ、費用対効果の高い試験の実施が可能です。さらに、豚白血球抗原(SLA)では11種類のハプロタイプが確認されており免疫学的反応の解析も行えます。
 

原著論文情報

  • 論文名:Severe cardiac and skeletal manifestations in DMD-edited microminipigs: an advanced surrogate for Duchenne muscular dystrophy
  • 著者: Masayoshi Otake, Michihiro Imamura, Satoko Enya, Akihisa Kangawa, Masatoshi Shibata, Kinuyo Ozaki, Koichi Kimura, Etsuro Ono & Yoshitsugu Aoki
  • 掲載誌: Communications Biology 2024

研究経費

本研究結果は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費2-6および5-7、科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究(26660258)の支援を受けて行われました。

関連リンク

神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php

遺伝子疾患治療研究部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_dna2/index.html

お問い合わせ

≪研究に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 
神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 部長
青木 吉嗣(あおき よしつぐ)
TEL: 042-341-2712(内線5221 or 2922)
E-mail: tsugu56(a)ncnp.go.jp

≪報道に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 
総務課広報室
〒187-8551東京都小平市小川東町4-1-1
TEL: 042-341-2711 (代表) / FAX: 042-344-6745
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