遺伝性筋疾患の
新しい原因遺伝子の発見

発症の遺伝コードを
解読する方法の概念図
遺伝性筋疾患は、全身の筋肉に病変をきたす進行性の希少難病です。患者さんは臨床的にも遺伝的にも個人差があり、世界的にも同疾患の6割の患者さんは原因が明らかではありません。そこで、疾患の原因を明らかにするには、多数の症例を比較、分類して解析する必要があります。MGCでは、疾患の原因や将来の発症リスクに関与する個人差を、DNAの違いとして明らかにしています(なぜなら、DNAは生体物質でありながら、遺伝の情報を持つからです)。
ここでいうDNAの違いとは、例えば、患者さんの全遺伝コード (ゲノム情報)だけに見られる置換、欠失、重複などを指します。つまり、その変化が病気の原因になっている可能性が高いのです。そこで、患者さん一人当たり6億個の全遺伝コードから遺伝情報学的手法を用いて対照には無い発症の遺伝コードを探し出します。
2019年度、2020年度の成果では、我々は神経研究所、NCNP病院、そして国内外の医師、研究者と連携して、発症原因が不明であった幾つかの遺伝性筋疾患について原因遺伝子を特定しました(リファレンス1、2)。
眼咽頭遠位型ミオパチー (OPDM) の臨床ゲノム学的解析

OPDMは、手や足先の筋力低下、眼の周りの筋肉や顔面の麻痺、発声や咀嚼を司る筋肉の筋力低下を伴う疾患です。筋病理学的には、委縮した筋繊維に「縁取り空胞」という筋変性産物が認められます。1977年に初めて本疾患の臨床像が報告されて以来、長い間、その発症原因は不明でした。しかし、2019年、東京大学の研究グループによるLRP12の発見に続いて、2020年、北京大学とNCNPのグループで第二の原因遺伝子 GIPC1を見出し、さらに神経研究所との共同研究で第三の原因遺伝子 NOTCH2NLCを報告しました。これら3つの遺伝子にはOPDMの原因となる共通の病因メカニズムがありました。それは各遺伝子領域にコードされるCGGの繰り返し配列の異常な伸長でした(図2)。この様なCGG繰り返し配列の異常伸長が、トリプレットリピート病です。
我々は、さらにOPDMの3遺伝子について詳細な解析を行い、筋病理学的に縁取り空胞を認める8割の症例で、3遺伝子の何れかにCGG配列の異常伸長があることを突き止めました(図2)。この成果を受けて、現在、NCNP筋疾患病理診断、遺伝子診断サービスでは新たにOPDMの遺伝子診断を外部医療機関から受け付けています(リファレンス3)。
リファレンス
- プレスリリース2019年7月2日 「先天性ミオパチー患者さんに骨格筋と心筋のみに発現するCOX欠損症の新たな原因遺伝子を発見~ミトコンドリア病においても新たな発見~」 https://www.ncnp.go.jp/topics/2019/20190702.html
- Deng J, et al, Expansion of GGC repeat in GIPC1 is associated with oculopharyngodistal myopathy. American Journal of Human Genetics (2020) 106(6),793-804.
- Kumutpongpanich T, et al. Clinicopathological features of oculopharyngodistal myopathy with LRP12 CGG repeat expansions compared with other oculopharynogodistal myopathy subtypes. JAMA Neurology (2021) 78(7), 853-863.
研究部紹介
MGC (メディカル・ゲノムセンター) 臨床ゲノム解析部
写真/臨床ゲノム解析部 臨床ゲノム解析室 飯田 有俊室長
【ホームページリンク】
MGC(メディカル・ゲノムセンター)
https://www.ncnp.go.jp/mgc/index.html
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