短時間でも実施可能な効率型CBTの開発
私たちが研究している認知行動療法 (Cognitive Behavioral Therapy : CBT) は、ものの見方や考え方に働きかけて気持ちを楽にし、考え方のバランスをとり、ストレスに対応できる心の状態をつくっていく治療法です。精神疾患は、日本人の 4~5人に1人が生涯で罹患するといわれています。CBTはその治療法として、薬物療法と並んで世界の多くの診療ガイドライン (各疾患の最適な治療の指針) で推奨されています。CBTは精神疾患以外にも、過敏性腸症候群、慢性的な痛みなど身体疾患の改善にも役立ちます。
現在CBTは、治療を必要とする患者さんの数に対して、治療者が不足しています。通常、CBTは1回50分前後、16回行う必要があります。そのため、治療者の時間の確保が難しいことがその要因のひとつとして指摘されています。
この問題を解決するために、私たちは、1回15分で行うことができるCBT「効率型認知行動療法 (Streamlined CBT: SCBT)」を開発しました。短時間でも通常のCBTと同様の効果を示すことを目指しています。

図1:近年、認知行動療法が脳に及ぼす影響についての研究が注目されています。効率型認知行動療法によるうつ病の症状の変化と脳への影響を脳機能画像検査を用いて調べていきます
うつ病に対するSCBTの開発と挑戦
SCBTの特徴のひとつがウェブサイト「認知行動療法マッ プ」です。これはCBTについて説明した動画や使用するシー ト、様々な種類のマニュアルが集められたプラットフォームです。患者さんは診療時間の前後に、このサイトを使って自分で学ぶことができ、16回のCBTが終了した後も何度も見直して、再発予防に役立てることができます。サイトを活用することで、短時間でもこれまでのCBTと同等の効果が得られるように工夫されています。
一方、治療者は基本的な説明はウェブサイトの情報に任せて、限られた診療時間を患者さんの症状改善、問題解決のために話し合うことに注力できます。
SCBTの有用性を検証するため、2022年から「うつ病に対する効率型認知行動療法の有効性および実施可能性に関わるパイロットスタディ」の臨床研究を行っています。うつ病の方、短時間でCBTを受けたい方、パソコンを使い慣れている方が対象です。この研究を経て、将来、病院の外来や病棟、福祉や教育、産業の場で、様々な年齢の精神、身体疾患の方々が利用できるよう開発を進めます。

図2:国の研究などで作成された認知行動療法のマニュアルやマテリアルを誰もが無償で閲覧・ダウンロードできるようにした「認知行動療法マップ」(2023年度~公開予定)。これを活用して、様々な病気や状態に応じた認知行動療法の技法を学ぶことができます
リファレンス
- 久我弘典. 認知行動療法の現状と課題および今後の展望. メディカルビュー社. DEPRESSION JOURNAL. (2021)9(3): 24-25.
- 久我弘典, 島津太一、梶有貴. 実装科学でめざすEBMの次の一手一エビデンス に基づく介入を現場に根付かせるには (座談会) 医学書院. 週刊医学界新聞 . (2021) 3439:1-2.
研究部紹介
認知行動療法センター
認知行動療法センター/久我弘典 センター長
研修指導部のメンバー
【研究部ホームページリンク】
認知行動療法センター
https://www.ncnp.go.jp/cbt/
▼NCNP内連携組織リンク
NCNP病院病院 精神診療部(精神科)
病院 臨床心理部
病院 臨床研究・教育研修部門(CREP)
IBIC(脳病態統合イメージングセンター)
TMC(トランスレーショナル・メディカルセンター)
記事初出
「Annual Report 2021-2022」(2022年12月発行)
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