NCNP注目の取り組み

NCNP注目の取り組み
  1. TOP
  2. NCNP注目の取り組み
  3. 脳が「シナプス前抑制」で手指の感覚を自在に操る仕組みを解明

脳が「シナプス前抑制」で手指の感覚を自在に操る仕組みを解明

神経研究所
モデル動物開発研究部

モデル動物開発研究部 は、主として動物実験によって身体運動制御の神経メカニズムとその病態の解明を目指しています。
今回の研究成果は、脳の中の情報伝達に必須と考えられてきた「シナプス前抑制」の、通常の運動時の機能を解明する取り組みです。

意思で体を動かす時の脳神経間の情報伝達を計測する

人間の体の動きは脳が作り出しています。大谷翔平選手やイチロー選手のプレーは、脳が手足を巧みに操る好例です。運動中は手足から脳へ大量に体に感じる刺激(体性感覚)の信号が送られます。例えば、手の位置やスピード、力の大きさ、バットの感触などです。人はこれらの信号をもとに運動をコントロールします。ところが脳卒中などになるとそれらが上手くできなくなります。その仕組みはまだ完全には解明されていません。
 私たちは、「シナプス前抑制」という脳神経間の情報伝達を変化させる脳の仕組みによって脳が手足の感覚をコントロールしているという仮説を立てました。シナプス前抑制では、シナプス終末の電位を上昇させることにより神経伝達が減弱します。仮説を検証するため、サルの手首運動中における固有感覚の神経終末に生じるシナプス前抑制の大きさを測定する方法を開発しました。シナプス前抑制が強まると信号伝達が抑制され、弱まると情報が広がりやすくなります。運動中のサル(図1)の脊髄の手首伸筋の感覚神経終末を微弱に電気刺激し(図2)、逆行性電位(ADV)を測定しました(図3)。するとADVが大きいほどシナプス前抑制が強い、つまりADVによってシナプス前抑制が測定できることが分かりました。
 
図1~3

運動中の固有感覚はシナプス前抑制によってコントロールされている

 図4は本研究における発見のまとめです。手首の屈曲時には、受動的に引き伸ばされる手首伸筋・腱から脊髄への固有感覚信号の伝達が、シナプス前抑制の高まりを受けて小さくなります(これを感覚抑制とよびます)。一方手首伸筋が収縮して運動を起こす手首伸展時には、シナプス前抑制が低下して、手首伸筋・腱の固有感覚信号が脊髄に伝達されやすくなります(これを感覚増強とよびます)。このようなシナプス前抑制の調整は、手首屈曲時には長期間持続的に、一方、手首伸展時には動的運動の際に瞬間的に、それぞれ違った時間長で行われていることがわかりました。つまり筋や腱からの固有感覚入力は、運動の目的や内容に応じて、時間的に柔軟に調整されており、この調整は脳がシナプス前抑制を利用して、脊髄レベルで行なっているのです。このメカニズムは、健康な動物の手指の運動の制御に使われる一方、さまざまな疾患によるシナプス前抑制の異常が、感覚や運動の機能異常を引き起こすと考えられます。
 これらの結果は、感覚運動異常に関連する多くの精神・神経疾患の理解やリハビリテーションの新技術開発に役立つと期待されています。また、体育やスポーツ現場での新しい運動指導法の開発にも貢献する可能性があります。
 
図4
図4
 

リファレンス

1.Tomatsu S, Kim G, Kubota S, Seki K: Presynaptic gating of monkey proprioceptive signals for proper motor action. Nature Communications 14:6537. 2023
2.プレスリリース 2023年10月25日「運動時に手足の感覚を取捨選択する仕組みを解明~シナプス前抑制の脊髄内での機能を霊長類において証明~」
https://www.ncnp.go.jp/topics/2023/20231025p.html

研究部紹介

モデル動物研究開発部

モデル動物研究開発部 関和彦部長のポートレート
モデル動物研究開発部/関和彦 部長
研究風景の写真
研究の様子
 

▼NCNP内連携組織リンク
神経研究所

病院 身体リハビリテーション部

病院 脳神経外科診療部

病院 脳神経内科診療部

病院 整形外科

IBIC 先進脳画像研究部

記事初出
「Annual Report 2023-2024」(2024年12月発行)
広報誌>Annual Report2023-2024
※職員の所属情報は2024年10月現在のものです。