デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療が大きく前進 ~デュアルターゲティング核酸医薬(NS-089/NCNP-02)の医師主導試験の元となる結果を発表~

デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療が大きく前進 ~デュアルターゲティング核酸医薬(NS-089/NCNP-02)の医師主導試験の元となる結果を発表~

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2023年10月17日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療が大きく前進
~デュアルターゲティング核酸医薬(NS-089/NCNP-02)の医師主導試験の元となる結果を発表~

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所遺伝子疾患治療研究部のグループが開発を進めている、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を対象とした「NS-089/NCNP-02」(brogidirsen、以下 「本剤」)の非臨床試験データが、Molecular Therapy Nucleic Acids誌に掲載されました。

本剤は、特許出願技術である新規高活性配列探索法を用いて開発した、デュアルターゲティング・アンチセンス核酸医薬で、2ヶ所の離れた塩基配列を標的とする世界初のエクソン44スキップ薬です(図1)。従来の1ヶ所の連続した塩基配列を標的とするアンチセンス核酸医薬とは異なる設計方法です。本剤の有効性を調べるため、エクソン44スキッピングにより治療可能な遺伝子変異を持つ、DMD患者さん由来の筋細胞に本剤を投与することで、エクソン44スキッピングが生じ、ジストロフィンタンパク質の発現が誘導されることを確認しました。さらに、本剤をカニクイザルに静脈から全身投与したところ、骨格筋と心筋でエクソン44スキッピングが誘導されることを確認しました。本論文(非臨床試験)で見出した配列を用いて医師主導治験が実施されました。医師主導治験では、6例のDMD患者さんに対してNS-089/NCNP-02を静脈から全身投与することにより、世界で初めてヒトを対象に平均15%以上のジストロフィンタンパク質の発現回復に成功し、運動機能への有効性が十分に期待できる結果が得られました。
詳細は2022年3月17 日配信のリリースをご参照下さい(URL: https://www.ncnp.go.jp/topics/2022/20220317p.html)。

本論文は、NCNPと日本新薬株式会社(本社:京都市南区、代表取締役、社長:中井亨、以下、日本新薬)との共同研究を基とした共著論文です。また、本剤は現在日本および米国で第Ⅱ相試験を準備中です。

原著論文情報

  • 論文名:Exon 44 skipping in Duchenne muscular dystrophy:NS-089/NCNP-02, a dual-targeting antisense oligonucleotide
  • 著者:Naoki Watanabe, Yuichiro Tone, Tetsuya Nagata, Satoru Masuda, Takashi Saito, Norio Motohashi, Kazuchika Takagaki, Yoshitsugu Aoki and Shin’ichi Takeda
  • 掲載誌:Molecular Therapy Nucleic Acids
  • URL/DOI:https://doi.org/10.1016/j.omtn.2023.102034

助成金

NS-089/NCNP-02の開発は、以下の助成を受けています。
・日本医療研究開発機構(AMED)研究費
2015~2017年度 難治性疾患実用化研究事業「新規配列連結型核酸医薬品を用いたデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療の実用化に関する研究」
2016~2020年度 臨床研究・治験推進研究事業「疾患登録システムの効果的活用に基づく筋ジストロフィーの医師主導治験、ならびに医薬品開発に資する臨床研究の実施」
2018年度 橋渡し研究戦略的推進プログラム「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新規配列連結型核酸医薬品の医師主導治験」
2019~2021年度 橋渡し研究戦略的推進プログラム「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新規配列連結型核酸医薬品の医師主導治験」

用語の説明

<デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)>
DMDは、男児に発症する、もっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィンタンパク質)の遺伝子に変異が起こることで、正常なタンパク質が作れなくなり、筋力が低下してやがて死に至る重篤な疾患です。現在、その進行を遅らせる目的でステロイド剤による治療が行われていますが、それ以外に有力な治療法は存在せず、新たな治療法の開発が必要とされています。

<エクソン・スキップ治療>
アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸(DNAの様なもの)を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことで、アミノ酸読み取り枠のずれを修正(これをイン・フレーム化といいます)する治療法です。正常なジストロフィンタンパク質に比べると、その一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィンタンパク質が発現し、筋機能の改善が期待できます。この治療の対象となるエクソンは、患者の変異形式に応じて異なり、NS-089/NCNP-02はエクソン44を対象としています。

エクソン・スキップ治療の概念図

エクソン・スキップ治療の概念図

最上段:健常者では、ジストロフィンのメッセンジャーRNA(mRNA)前駆体から、スプライシングを経て成熟mRNAが作られ、ジストロフィンタンパク質が翻訳されます。
中段:エクソン45を欠失した DMDでは、エクソン44とエクソン46が連結したmRNAができますが、アミノ酸の読み枠にずれが生じ、ジストロフィンは発現しません(アウト・オブ・フレーム変異)。
下段:エクソン45を欠失した DMDを対象に、本剤 NS-089/NCNP-02を用いてエクソン44スキップを誘導し、エクソン43とエクソン46が直接連結出来る様にすると、アミノ酸の読み枠のずれは解消し、やや短いが正常に機能するジストロフィンが発現します(イン・フレーム化)。


<NS-089/NCNP-02>
本剤は、NCNPと日本新薬が共同で開発した世界初のエクソン44スキップ薬です。モルフォリノ核酸が本来有する高い安全性に加えて、特許出願技術である新規高活性配列探索法を用いて開発した配列連結型のモルフォリノ核酸製剤であり、高いエクソン・スキップ活性を有しています。エクソン44スキップにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失が確認されているDMD患者を対象として臨床試験を実施しています。米国では米国食品医薬品局(FDA)から2023年6月に希少小児疾患指定を、2023年7月にブレイクスルーセラピー指定とオーファンドラッグ指定を受理しています。

お問い合わせ先

≪研究に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 
神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 部長
青木 吉嗣(あおき よしつぐ)
TEL:042-341-2712(内線5221 or 2922)
E-mail: tsugu56(a)ncnp.go.jp

≪報道に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 
総務課広報
住所:〒187-8551東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2711 (代表)  FAX:042-344-6745
E-mail: ncnp-kouhou(a)ncnp.go.jp

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