NCNP注目の取り組み

NCNP注目の取り組み
  1. TOP
  2. NCNP注目の取り組み
  3. AI技術を用いて軽度認知障害患者のアルツハイマー病への進行を予測

AI技術を用いて軽度認知障害患者のアルツハイマー病への進行を予測

NCNP
神経研究所、精神保健研究所、NCNP病院

神経研究所(疾病研究第七部)、精神保健研究所(行動医学研究部)、病院(CREP) の研究チームにより、医療画像分野を得意とする企業との産学共同研究を行いました。脳MRI画像データ及び臨床データからAIを利用した認知症予測モデルを作成し、モデルの信頼性ならびに予測の妥当性の評価を実施しました。


認知症の新薬開発とAI技術への期待

 現在、約5,500万人の認知症患者が世界中に存在し、高齢化により2050年には約1億3,900万人に増加すると予測されています。特にアルツハイマー病(AD)は最も多く、今後も増加する傾向が続くと考えられています。最新のAD 研究では、ADの主な原因物質であるアミロイドβが発症前から脳内に蓄積することが分かっています。しかし、これまでADを含む認知症の前駆期にあたる軽度認知障害(MCI)患者を対象とした治験は十分とはいえません。 MCIからAD へ進行する患者の割合が、2年以内には20%未満と少なく、治験の期間中には進行しないMCI患者が多く存在し、新薬の治療の効果を正確に評価できていない可能性があるのです。
 この課題を解決するために、当研究チームは、医療画像分野を得意とする国内の企業(富士フイルム株式会社)と共同で、MCIからADに進行する患者を予測するAIを開発しました。この技術により、治験の対象患者を適切に振り分けることで新薬の有効性を正しく評価することができると考えられます。


   図1:AIがADへの進行を予測する上で注目した微細な萎縮パターン(MRI検査の三次元画像)

AD進行予測AI技術の開発と今後の展望

 AI 技術の開発には十分な学習データが必要ですが、現在の認知症患者の公開データベースで入手できるのは1000人程度であり、AI技術の開発には十分とは言えません。私たちは、この課題を克服するために、より高度なAI技術である深層学習を用いました。AD の進行と関連性が高い海馬や扁桃体などの領域から特徴量(特徴を数値化したもの)を取り出し、それを認知機能検査スコアなど複数の臨床情報と組み合わせることで、 高精度なAD の進行予測AIを構築しました。このAD 進行予測AI 技術は、異なる人種の患者でも高い予測精度を示し、従来のAI技術よりも汎用性の高い技術であることが示されました。
 今後は、このAI技術を治験データに適用し、治験の成功率向上や個別化医療の推進に役立てることを目指します。また、この技術を臨床医の診療支援への応用も検討しています。現在、臨床医が行う診療では、ADへの進行予測を行うことができません。今回開発したAI 技術を用いて、AD への進行リスクの高い人を特定し、適切な早期治療や早期支援に導けるようになることが期待されます。

図2:NA-ADNI とJ-ADNI での評価結果のROC 曲線。NA-ADNI、 J-ADNI ともに高い精度でAD 進行を予測したことを示している。
図2:NA-ADNI とJ-ADNI での評価結果のROC 曲線。NA-ADNI、J-ADNI ともに高い精度でAD 進行を予測したことを示している。

リファレンス

  1. プレスリリース2022 年4 月13 日「富士フイルムと国立精神・神経医療研究センター AI 技術を用いて 軽度認知障害患者のアルツハイマー病への進行を最大88% の精度で予測 -国際学術誌「Nature」の関連誌「npj Digital Medicine」に掲載-」 https://www.ncnp.go.jp/topics/2022/20220413p.html
  2. Wang, C., Li, Y., Tsuboshita, Y., Sakurai, T., Goto, T., Yamaguchi, H.,Yamashita, Y., Sekiguchi, A., Tachimori, H. and for Alzheimer’ s Disease Neuroimaging Initiative. A high-generalizability machine learning framework for predicting the progression of Alzheimer’ s disease using limited data. npj Digit. Med. (2022). 5, 43.

研究部紹介

>神経研究所 疾病研究第七部
>精神保健研究所 行動医学研究部
>病院 臨床研究・教育部門:CREP

 
記事初出

「Annual Report 2022-2023」(2023年12月発行)
>広報誌>Annual Report2022-2023

※職員の所属情報は2023年9月1日現在のものです