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個別化医療で副作用の少ない治療を ~自己免疫疾患治療法の進歩~

神経研究所
免疫研究部

異常免疫細胞の特徴を発見


 正常な免疫細胞は、体内に侵入した病原体などを攻撃して身体を守りますが、免疫細胞に異常が生じると自分の組織を攻撃してしまうことがあります。これが「自己免疫疾患」です。 正常な免疫細胞と異常免疫細胞の区別が困難なため、現在は、全ての免疫細胞の活性を抑える治療法が主流です。しかしこの方法だと正常な免疫細胞の動きも抑制してしまうため、どうしても副作用が生じてしまいます。
 私たちは、異常免疫細胞のバイオマーカーを探す研究を、自己免疫疾患モデルマウスを用いて行いました。その結果、Neuropilin-1 (NRP1)という分子の発現が一部の異常免疫細胞に特徴的であることを発見しました。この結果をふまえ、自己免疫疾患のひとつである「全身性エリテマトーデス (SLE)」患者さんの血中免疫細胞でNRP1の発現を調べたところ、NRP1が顕著に上昇していることを見出しました。これらの研究から、SLEと同じ自己免疫性疾患に分類される多発性硬化症や視神経脊髄炎の患者さんについてもNRP1の発現を調べることにより、一部の異常免疫細胞を特定できる可能性が示されました。

図1

図1:自己反応性 NRP1 Th細胞は、B細胞に自己抗体産生を促したり炎症誘発性サイトカイン (IFNY, IL-17) を産生します。
NRP1 Th細胞のみ除外できれば、副作用の少ない治療法になると考えられます。  

患者さんに合わせた個別化医療を

研究の様子の写真
研究の様子
 前述の研究成果は、自己免疫疾患の臨床研究全般で応用できる可能性が高く、副作用のない自己免疫疾患治療法の確立における大きな一歩となります。私たちは、自己免疫疾患のなかでも特に多発性硬化症の原因解明と新規治療法の開発に向けて研究を行っています。
 多発性硬化症の症状には手足のしびれや運動麻痺、視覚障害などがあります。しかし、同じ症状がみられる患者さんに同じ治療を施しても、治療効果が異なる場合があります。これは、症状が同じでも、病気の根本的な原因が異なっているからと考えられます。私たちは患者さん一人一人に、より適切な治療ができるよう、発症の原因を示すバイオマーカーの探索を進めています。私たちはこれまでに、二次進行型多発性硬化症 (SPMS) の診断においてEomesという分子を発現する免疫細胞が有用なバイオマーカーであり、Eomesを標的とした治療がSPMSモデルマウスにおいて効果的であることを 発見しました。このようなバイオマーカーの同定で、患者さんの体質や病気の特徴に合わせて治療する、個別化医療の開発 に寄与することを目指します。

 

リファレンス

  1. Raveney, BJE., EI-Darawish, Y., Sato, W., Arinuma, Y., Yamaoka, K., Hori, S., Yamamura, T. and Oki, S. Neuropilin-1 (NRP1) expression distinguishes self-reactive helper T cells in systemic autoimmune disease. EMBO Molecular Medicine (2022) 14:e15864.
  2. Yamamura, T. Time to reconsider the classification of multiple sclerosis. Lancet Neurology (2023)22(1) 6-8.

研究部紹介 神経研究所 免疫研究部

免疫システムの異常で自分自身の組織を攻撃してしまう 「自己免疫疾患」の原因を明らかにする研究を行なっています。基礎研究者と臨床研究者がともに協力し合い、 自己免疫疾患の新しい治療法の開発を目指しています。

 
研究者のポートレート写真
Ben Raveney 研究員
 
免疫研究部のメンバー
研究所のメンバー

 

▼NCNP内連携組織リンク
神経研究所 免疫研究部
病院 多発性硬化症センター
 

記事初出
「Annual Report 2022-2023」(2023年12月発行)
>広報誌>Annual Report2022-2023

※職員の所属情報は2023年9月1日現在のものです