精神疾患病態研究部は、 大規模な精神疾患データベースを運営し、新たな疾患分類による病態解明と診断法・治療法の開発を行い、全国の精神科医療機関と共同で精神科治療ガイドラインの普及・教育・検証活動を実施し、精神科医療の質を高めることを目指しています。
精神科医療の質のばらつきは大きい
精神科医療では薬物療法と心理社会的療法がその両輪ですが、その実践については精神科医ごとのばらつきが大きく、標準的な医療の普及が必要とされています。そこで、精神科治療ガイドラインの普及・教育・検証活動を目的とした「EGUIDEプロジェクト」が発足しました。8年目になり、全国301医療機関・47大学が参加する精神科領域で最も大規模な共同研究へと発展しました。このプロジェクトでは、全国の病院で精神科医療がどのように行われているかの調査を行い、医療の質を均てん化(全国どこでも標準的な専門医療を受けられるよう医療技術等の格差の是正を図ること)するための講習を行います。これまで統合失調症及びうつ病のガイドライン講習は7年間で150回行われ、延べ約3700人の医療従事者が受講しました。
また、統合失調症において推奨されている抗精神病薬単剤治療率が、欧米では80%を超えているのに比べ、日本では約57%と低く、ガイドラインが十分に普及していないことも、このプロジェクトの調査で明らかになりました。
図1: 統合失調症における抗精神薬の単剤治療率のグラフ。本研究グループは今までに、統合失調症とうつ病のそれぞれに対する標準的な治療である抗精神病薬単剤治療率と抗うつ薬単剤治療率が0~100%と病院によって大きくばらついていることを明らかにした。
精神科医療の質の向上への道
EGUIDEプロジェクトにおいて、たった一日のガイドラインの講習を受けることにより、医師と患者が話し合って治療の方針を決定する共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)への理解が深まり、ガイドラインの理解度が顕著に向上することが示されました。実践度もまた持続的に向上していることがわかりました 。更に、受講した医師が主治医の患者と受講していない医師が主治医の患者の治療の違いを比較しました。その結果、受講した医師が主治医の患者の方が、統合失調症で推奨される抗精神病薬単剤治療やうつ病で推奨される抗うつ薬単剤治療など、診療の質指標がより高いことが示され、ガイドライン講習の効果が立証されました。全国規模で講習を行っていくことで精神科の標準的医療の均てん化が達成できれば、全国の患者さんが安心して精神科医療を受けることができます。
医療者が、精神医学・医療に対する理念を共有し切磋琢磨することにより、わが国の精神科医療レベルが向上し、次の世代へ普及し、教育が継続していくことが期待されます。
図2: 統合失調症とうつ病のガイドラインの推奨治療率の変化。受講した医師の統合失調症の抗精神病薬単剤治療率は有意に高くなり※ 、受講しない医師の場合は有意に低くなった※ 。うつ病の抗うつ薬単剤(その他の向精神薬の併用なし)についても受講した医師の治療率は有意に高くなり※ 、受講しない医師の場合は変わりがなかった。
リファレンス
- プレスリリース 2023年9月11日「診療ガイドラインの社会実装手法を初めて確立誰もが推奨される医療を受けられるようになることへの期待」 https://www.ncnp.go.jp/topics/2023/20230911p.html
- 「EGUIDEプロジェクト」ウェブサイト https://byoutai.ncnp.go.jp/eguide/
研究部紹介 精神保健研究所/精神疾患病態研究部
橋本亮太研究部長
研究部のメンバー
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記事初出
「Annual Report 2022-2023」(2023年12月発行)
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※職員の所属情報は2023年9月1日現在のものです