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治療による薬物依存対策を 〜SMARPPの国内・海外への広がり〜

精神保健研究所
薬物依存研究部

薬物依存研究部では、薬物の神経毒性・依存性に関する評価、薬物使用経験や乱用・依存に関する疫学的研究、薬物依存症の治療法開発を行うとともに、病院と連携した臨床活動、ならびに医療・保健専門職を対象とした技術研修を行っています。

依存症集団療法プログラムの効果

 依存症集団療法「SMARPP」は、2005年に当時開設したばかりの医療観察法病棟で始められた「物質使用障害治療プログラム」に端を発しています。これを前身に海外視察やワークショップを経て、2006年に最初のトライアルが行われ、以後改良を加えながら2010年より正式にNCNP病院で開始されました。「SMARPP」は認知行動療法の手法を活用しており、ワークブックとマニュアルに準拠してファシリテーターが進行し、参加者がグループで語り合うことで薬物依存を克服するプログラムです。2016年には診療報酬の算定対象となり、現在は精神科医療機関48箇所、さらに全国精神保健福祉センターの約7割にあたる48箇所で実施されるとともに、国内各地の刑事施設や保護観察所でも実施されています。2009年以降、年1回の研修会でファシリテーターが養成されており、現時点で1300名を超えています。2016年からは法務省でも職員を対象に同様の研修会を実施しています。
 「SMARPP」の開発と普及は断薬成功者を増やし、わが国の薬物依存症対策を「刑罰から治療」へと進めるのに貢献しているといえるでしょう。


図1: 法務省での薬物依存対策研修講義の様子

海外にも広がる「SMARPP」

 「SMARPP」は、近年では海外にも広がりつつあります。なかでも、インドネシアでは国内全土で実施体制が整備されました。多数の島から構成される同国では、かねてより治療アクセスが課題となっていましたが、オンラインでSMARPPを提供することで、その課題を克服しました。この試みは、米国科学アカデミーの薬物依存研究委員会(CPDD)が主催する国際学会で表彰されました。
 SMARPPは韓国でも試みられています。今年の4月、韓国語版SMARPPワークブックが刊行され、精神科医療機関1施設で施行されています。これと前後して、当研究部長の著作による、一般向け依存症関連書籍2冊(リファレンス2)の韓国語版が刊行されるなど、同国においても私たちの取り組んできた薬物依存克服についての研究・臨床活動への関心が高まっています。
 韓国も日本同様、薬物依存問題への偏見が強い社会で知られています。SMARPPへの関心の高まりを機に、同国でも「刑罰よりも治療を」という考えが浸透することを期待しています。


図2: インドネシアにおける取り組みの学会発表資料。オンラインによるセッションでPCT(ランダム化比較試験)を実施している。


図3:韓国語版『SMARPPワークブック』


 

リファレンス

  1. Yamamoto T, Kimura T, Tamakoshi A, Matsumoto T: Biennial Changes in the Characteristics of Patients with Methamphetamine Use Disorder in Japan from 2000 to 2020. Journal of psychoactive drugs (2022)1-9.
  2. 『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論 』みすず書房(2021-4-1) 『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい? 』河出書房新社(2021-8-24)両書とも著作/松本俊彦

研究部紹介 精神保健研究所/薬物依存研究部

講義をする薬物依存研究部長の写真
研修の講義をする、薬物依存研究部 松本俊彦 部長

精神保健研究所のホームページ
薬物依存研究部のホームページ

▼NCNP内連携組織リンク
>病院 精神診療部
    臨床心理部
    精神リハビリテーション部
    看護部
IBIC 臨床脳画像研究部
 
 

記事初出
「Annual Report 2022-2023」(2023年12月発行)
>広報誌>Annual Report2022-2023

※職員の所属情報は2023年9月1日現在のものです