知的・発達障害の概要

知的・発達障害とは

 知的・発達障害は、遺伝要因あるいは胎児期・新生児期の環境要因のためにみられる脳の働き方の違いにより、幼少期よりものごとのとらえ方や行動面に多数派の子どもたちとは相違が生まれる状態です。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることもあります。また、その特性が軽度な場合には、大人になってから生活上の困難を抱えることもあります。

 知的・発達障害の診断は、当事者の方がどのような困難に直面し、いかなる支援ニードをもっているかを知る手がかりになります。ただし、同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害を併せ持ったりすることもあります。また、知的・発達障害の方にはメンタルヘルス不調を併せ持っていることもあります。ひとりひとりの困難のあり方について、支援者とともにじっくりと考え、ご本人ができる工夫、ご家族・周囲の人が学校や職場でできる配慮などを行うことで、その人らしさを発揮しやすくなります。人はみな多様性をもっています。誰もが自分らしくいきられることは権利でもありますし、同時に、その工夫や配慮の数々は、誰もが暮らしやすい社会の実現にもつながるものです。

自閉スペクトラム症とは

 幼少期より認められる、人との相互的なコミュニケーションに困難があったり、興味が特定のことに極端に偏っていていたり、こだわりが強く、変更がきかない、感覚の過敏さがあるなどで診断されます。生まれ持っての特性であり、子育てによるものではありません。

 幼児期には、目と目が合わない、指さしをしない、微笑みかけても微笑みかえさない、あとおいがみられない、人見知りがない、同世代のほかの子どもに関心をしめさない、言葉の発達が遅い、こだわりが強くて自分の決まりを変更させようとするとかんしゃくを起こすといった様子がみられます。保育所や幼稚園に入り、一人遊びが多い、集団活動に入れない、分離が難しい、友達と交流しないことなどで気づかれることもあります。話し言葉がないこともありますが、話し言葉はあっても、自分の興味のあることばかりを話し、相互的に言葉をやりとりすることが難しい場合もあります。また、電車、ミニカーやビデオなど、自分の興味のあることには、毎日何時間でも熱中することがあります。初めてのことや決まっていたことが変更されることは苦手で、環境になじむのに時間がかかったり、偏食が強かったりすることもあります。

 学童期には、先生の話を聞く、先生がクラス全体に出した指示に従う、班活動やグループ授業のような集団行動が求められます。また、学年が上がるにつれ、算数でも文章題や補助線を引かないと解けない問題が増えるなど、多様な能力を総合的に求められる機会が増えます。思春期になると、求められる対人スキルもより複雑になっていきます。いじめなどの被害に遭いやすいということもありますが、同時にそのような被害に遭ったとき、家族や先生にうまく援助を求められないという問題もあり、精神的な苦悩を抱えがちです。

 就職してから仕事が臨機応変にこなせないことや対人関係などに悩み、家庭生活や子育ての悩みを抱え、病院を訪れる人もいます。不安やうつなどの精神的不調を伴うこともあります。また。成人期になってから日常生活、家庭、職場などで困難を抱え、精神的な不調を伴い支援を必要とすることもあります。

注意欠如・多動症(ADHD)

 12歳以前から、発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があり、そのことによって家庭、学校、職場などの複数の場面で困難がある場合に診断されます。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。

 子どもの多動性-衝動性は、落ち着きがない、座っていても手足をもじもじする、ちょっとしたことですぐに席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などといったことです。不注意の症状は、学校の勉強でミスが多い、課題や遊びなどに集中し続けることができない、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが苦手、整理整頓が苦手、宿題のように集中力が必要なことを避ける、忘れ物や紛失が多い、気が散りやすい、などがあります。

 大人になると、計画的に物事を進められない、そわそわとして落ち着かない、他のことを考えてしまう、感情のコントロールが難しいなどといったことが見られます。子どもの時に比べて、大人になると、落ち着きのなさなどの多動性-衝動性は軽減することが多く、そのため多くの困難を経験していても、その症状は目立ちにくくなります。また、不安や気分の落ち込みや気分の波などの精神的な不調を伴うことも少なくありません。

限局性学習症(学習障害:LD)

 全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。その背景には、読み書きや計算に求められる何らかのステップ(視覚・形態認知、音韻への変換・処理、数概念の処理など)に何らかの機能障害があると考えられます。 読字障害(ディスレクシア)

 文章を読むとき、読み飛ばしや読み間違いが多く内容を理解することが難しい、文章をチャンクに区切ってすらすらと読めないなどの症状があります。 書字表出障害(ディスグラフィア)

 字を書こうとしても、およその形しか思い出せなかったり、偏が書けても旁が書けない、一本多かったり少なかったりする、書字に関わる動作としての記憶ができず、正しく書き順で書けない、形態的に似ているかなや漢字の誤りが多いなどの特徴があります。 算数障害(ディスカリキュリア)

 数の大小や順序などがわからない。簡単な計算ができなかったり、繰り上がり、繰り下がりができない。

 読み書きや計算の困難ですので、家庭学習や学校の学習場面で困難に気づかれることの多い障害です。言語聴覚士による音読、音韻認識、視覚認知などの評価を通じて検査がなされ、その評価と学習場面での状況をもとに医師が診断しています。

運動症

1.チック症

 チックは、思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声です。まばたきや咳払いなどの運動チックや咳払いや鼻すすりなどの音声チックが一時的に現れることは多くの子どもにあることで、経過をみることで軽快します(暫定的チック症)。しかし、軽快したチックが再び出現したり強まったりより複雑なチックが現れたり、ということを繰り返しながら、多彩な運動チック、音声チックが1年以上にわたり強く持続し、日常生活に支障を来すほどになることもあります。その場合にはトゥレット症とよばれます。

 トウレット症の運動チックでは、首を激しく振る、座っているときや歩いているときに飛び上がる、腕を自分の体幹に叩きつける、歩いているときにしゃがむ、地面を強く踏みつける、おなかに力をいれる、うっという発声だけでなく、甲高い声や大きなうなり声、単語をいうなどの複雑な発声を伴うこともあります。また、触ってはいけないと思うとそのものを触ってしまう、壊してしまう、自分が決めた回数だけ行動を繰り返さなければならない、ぴったりした感じがするまで音を出したり座り直したり、持ち直したりするといったような強迫的行動を伴うこともあります。症状は典型的には10-15歳ぐらいに一番強くなりますが、成人になっても強い症状を継続することもあり、身体を痛めてしまうこともあります。

2.発達性協調運動症

 発達期より、協調運動スキルを身につけたり遂行することがが、年齢や、スキル学習あるいはスキル使用の機会と比べて著しく困難で、日常生活に支障を来たす状態を言います。

3.常同運動症

 発達期より、一見無意味な行動が、反復的に、まるで駆り立てられるように行われたり、日常生活に支障を来すことを言います。例として、手もみ、手をひらひら、体を前後に揺する、頭を打ち付ける、自分をかむ、体をたたくといった行動があげられます。

コミュニケーション症

 ことばを理解し、ことばを発する過程のいずれかにおいて困難がある状態をいいます。語彙や構文、話法の習得や使用、発音、流暢な発話などの多様なコミュニケーションの困難さが含まれます。

・言語症(言語障害)……語彙、文章を組み立てる力、わかりやすく話す力に困難があり、書く、話すといった言語の習得や使用が困難な状態。

・語音症(語音障害)……身体的や神経学的な障害がないが、正しく発音したり、思っていることを言葉にすることが困難な状態。

・小児期発症流暢障害(吃音)……音をくりかえしたり、音が伸びたり、なかなか話し出せなかったり、発話が止まったりして、なめらかな発話が困難な状態。

・社会的(語用論的)コミュニケーション障害……社会的に必要なコミュニケーションをとったり、状況や相手に合わせてコミュニケーションを変えたり、会話の社会的ルールに則って会話したり、ユーモアや隠喩、慣用句の理解や、状況に応じた言葉の解釈が困難な状態。

知的能力障害(知的障害)

 就学前には、食事、更衣、入浴、遺尿などの身辺自立が進まないことや、社会的な働きかけに対して反応性が乏しかったり、かんしゃくが多い、幼稚園や保育園で他の子どもの活動について行けないこと、あるいは、他の発達障害の診断を契機として診断されます。発達支援センターや親子通園施設などで、療育を受けていただくことが可能です。療育技法は様々ですが、多くは、基本的な日常生活スキル、手先の巧緻性や粗大運動、小集団のなかで社会性の促進を目的としています。

 就学後は、数の概念や算数、読み書きなどの学習課題に、児の学習進度に合った課題を選択し、わかりやすい教材の工夫を交えながらきめ細やかな指導が実施されます。その場合、通常級において可能な範囲の個別的対応や補助教員による援助を行ったり、週に1時間など、算数や国語などの特定の科目を取り出して、通級指導を受けたりすることができます。また、支援のニードによって、特別支援学級に在籍したり、特別支援学校を利用することもあります。その他にもレスパイト目的で短期的な入所施設を利用したり、ガイドヘルパーを利用するなどの福祉的支援を受けることもできます。

 義務教育終了後の進路も、企業就労、作業所や就労移行施設への通所、デイサービス、入所、高等学校や専門学校等への進学、特別支援学校高等部への進学など多様です。特別支援学校の中には、高等部のみを設置し、比較的軽度の知的発達症の児童を対象に、企業実習などを多く取り入れながら、障害者雇用などを目指す学科もあります。

 成人期では、障害者雇用を含めた雇用の他、デイサービス、生活介護、グループホームや通所・入所施設などの利用が可能です。また、余暇活動など就労以外の生活や日常生活のスキル向上を目指す取り組みも大切です。


国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部

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