不眠症(Insomnia)

どんな病気?

 なかなか寝つけず(入眠困難)、夜中に何度も目を覚ます(中途覚醒)、もしくは朝早く目が覚め(早朝覚醒)、再び眠りに戻ることが難しいことが不眠の特徴です。眠りに伴う休息感が薄れ、活力や気分だけでなく、健康、仕事の効率、生活の質が損なわれます。

慢性不眠症とは?

 強いストレスを感じる出来事に遭遇すると、多くの人が数日から数週間続く一時的な不眠を経験します。しかし、一部の人では不眠が1ヶ月以上にわたり持続します。不眠が週3日以上、3ヶ月以上持続する場合、治療が必要な慢性不眠症の可能性があります。不眠症は単独で生じる場合もあれば、精神疾患や身体疾患に伴い生じる場合もあります。

なぜ不眠が長引くの?

 不眠の慢性化には、以下の要因が関与すると考えられています。逆に、これらを早めに修正することが、不眠の慢性化を防ぐこつです。
1)不適切な睡眠習慣:寝る前にリラックスしようとして、カフェイン(緑茶、紅茶、コーヒー)、ニコチン(タバコ)を摂取すると、これらの物質が持つ覚醒作用により、寝つきがかえって妨げられます。アルコールには寝つきを促す作用がありますが、夜中にアルコールが抜ける段階で覚醒を促し、中途覚醒を増加させます。
2)床上時間のミスマッチ:寝不足を取り戻そうとして、普段より長く寝床に居続けることは、いくつかの理由から適切とは言えません。
 まず、一晩にとれる眠りの量や寝付けるタイミングは一人一人異なります。普段より長く寝床で過ごすと、眠りが浅くなり中途覚醒が生じやすくなります。また、普段より早く寝床に入っても寝つけず、イライラ・心配しながら床の中で過ごすことがさらに寝つきを悪化させます。
3)日中の活動量減少:不眠が続くと、意欲がそがれ、気分がすぐれず、日中の活動量は低下しがちです。しかし、日中の活動量が減ると、寝つきが悪くなり、眠りが浅くなります。起きている間に、できるだけたくさん体と頭を動かすほど、眠りの必要性が高まり、疲労回復や学習定着に役立つ良質な睡眠が促されます。
4)睡眠状態誤認:慢性不眠症では、実際の(客観的な)睡眠時間と、自覚的な睡眠時間が一致しないことがあり、自覚的睡眠時間を非常に短く感じることがあります。この場合は、睡眠時間をむしろ積極的に短くし睡眠を濃縮させることが、不眠の解消に役立つことがあります。

治療法は?

 眠れないことへの恐怖感から、眠ろうと努力すればするほど、不眠はかえって悪化する傾向があります。慢性不眠症の治療は、まず前述の不適切な睡眠習慣や対処法を見直すことから始まります。うまく寝つけない場合には、いったん寝床を離れ緊張をほぐし、眠気がやってきたら寝床に入り直す方法も効果的です。眠りが不十分であっても、決まった時刻に起床することで、翌日は体が休もうとする力が高まり眠りが促されます。不眠が続いてしまったら、床上時間を普段よりむしろ短くすることで、眠りが「濃縮」され、寝つきや眠りの維持が容易になります。

 最も多く用いられている治療法が睡眠薬による治療です。脳の抑制系の働きを促すもの、脳内の眠りホルモンの作用を助けるもの、脳の覚醒系の働きを抑えるものなどがあります。睡眠薬は、睡眠習慣や対処法の見直しを行った後に、短期的・補助的に用いられることが望ましいと考えられていますが、長期使用が必要となる場合もあります。この場合は主治医の判断に従い、決められた使用法・使用量を守って使用継続する必要があります。

 欧米では非薬物療法(不眠に対する認知行動療法など)が推奨されていますが、わが国では医療保険が適用されず、治療を提供できる医療施設も多くありません。