脳神経内科診療部 は神経・筋疾患の治療と研究を行っています。
進行期パーキンソン病治療法として、新しい持続皮下注製剤が2023年7月に使用可能となりました。当部では、本剤の導入や調整にレボドパ血中濃度測定を組み込み、更に診療の質を向上させています。
薬液を少量ずつ注射する治療法「持続皮下注」
パーキンソン病は脳内の神経伝達物質であるドパミンが減少して起こる病気です。パーキンソン病の治療は薬物療法からスタートしますが、一般的な薬では十分な治療効果が得られない進行期パーキンソン病には、機械を用いた治療法(DAT)を行います。現在日本で行われているDATは、脳外科手術による深部脳刺激療法(DBS)、皮下に薬を送り込むホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注(ヴィアレブⓇ)、小腸に直接薬を送り込むレボドパ・カルビドパ持続経腸療法(デュオドーパⓇ)の3種類です。当院では、2016年に国内初のデュオドーパ専門外来を開設し、現在はヴィアレブ・デュオドーパ専門外来として診療を行っています。ヴィアレブⓇは体内でレボドパに変わる薬で、身に着けて持ち歩く機器を使い、皮膚の下へ薬液を一定の速度で流しこむことで効果を安定させます(図1)。内服薬や貼付薬では症状が安定しない患者さんや、薬の効果が持続しない患者さんが対象です。効果は個人差が大きいため、患者さんの意向を大切にしながら診療を行っています。

図1: ヴィアレブⓇの模式図(アッヴィ合同会社提供)
レボドパ血中濃度の測定を未来に活かす
パーキンソン病治療の主役は、脳内でドパミンに変換されるレボドパと呼ばれる薬です。薬の効きが悪い場合、薬が十分に吸収されていないため効果を発揮しないのか、薬が吸収されているにも関わらず効果がないのか、分けて考える必要があります。薬は脳の中で作用するため、本来は脳の中、特に基底核と呼ばれる部位のドパミン濃度が測定できればよいのですが、現在の医療技術では困難です。そこで、当院では脳へ入っていく手前の段階、血液中のレボドパ濃度測定を行っています(図2)。レボドパ血中濃度と、患者さんからの症状の聞き取り、診察によるパーキンソン病症状の評価を組み合わせることで、患者さんにとって適切な量の薬が使用できているかを総合的に判断しています。
新たな注射薬ヴィアレブⓇも体内に入ると速やかにレボドパに変換されますので、レボドパ血中濃度測定は有用です。
当院でのヴィアレブⓇ導入患者数は、2023年度は世界最多でした。私たちは患者さんの協力を得て、血中濃度を含む医療情報を収集・解析する研究を行い、今後の臨床に貢献していきます。

図2: レボドパ血中濃度測定の一例

脳神経内科診療部 向井洋平医長(診療の様子)

持続皮下注機器
リファレンス
1.Murata M, Mizusawa H, Yamanouchi H, Kanazawa I. Chronic levodopa therapy enhances dopa absorption: contributionto wearing off. J Neural transm (1996)103(10): 1177-1185. doi:10.1007/BF01271202.
2.NCNP病院パーキンソン病専門外来
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/special/annai_parkinson.html
関連リンク
>パーキンソン病・運動障害疾患(PMD)センター▼NCNP内連携組織リンク
>メディカル・ゲノムセンター(MGC)
記事初出
「Annual Report 2023-2024」(2024年12月発行)
>広報誌>Annual Report2023-2024