子どもの脳を守るてんかん外科  負担の少ない手術に向けて

子どもの脳を守るてんかん外科 負担の少ない手術に向けて

脳神経外科診療部は、NCNP病院における一般脳神経外科診療を担当するとともに、
研究所や各センターと連携しててんかん外科・機能的脳神経外科の研究を行っています。
新しい外科手技の開発や、NCNPバイオバンクへの外科検体の登録にも取り組んでいます。

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NCNP病院脳神経外科診療部

てんかん発作を抑えて
子どもの発達をうながす

 てんかんは、「てんかん性放電」と呼ばれる脳の異常活動によって、意識障害やけいれんなどの発作を繰り返す病気です。脳の形成障害や遺伝子異常、腫瘍など、様々な原因がてんかんを引き起こします。てんかんは、例えば自動車運転など社会生活に制約をもたらすほか、認知機能の低下につながることがあります。子どものてんかんの多くは抗てんかん薬で発作が抑制され転帰は良好ですが、一部の患者では、てんかん発作や脳波の異常そのものが正常な発達の妨げになることがあります。
 片側巨脳症のようにてんかんの原因となる大きな病変があると、生後間もない時期から難治のてんかん発作と発達の遅れが問題になることがあります。当院脳神経外科では、手術の適応があるお子さんに対して生後3~6カ月の超早期に外科治療を実施してきました。3歳未満で手術を行った75名の治療成績を解析したところ、手術に関連する死亡はなく、手術後1年で82.7%、5年で71.0%の患者さんで発作が消失していました。また、手術による発作の消失が子どもの発達の改善に寄与することを明らかにしました。

てんかんが子どもの発達に影響する因果関係の説明図

図1:てんかんが子どもの発達に影響する因果関係。もともとの発達と発作の消失が良好な発達に寄与する

子どもにとって
負担の少ない手術を目指して

島回に対する定位的温熱凝固術の脳画像
図2:島回に対する定位的温熱凝固術。定位的手術によって、赤色で示した脳深部の領域のみが治療された

 外科医療の分野では、常に手術の負担を減らす取り組みがなされています。近年、てんかん外科においては定位的手術の導入が盛んです。これは、検査や治療の対象となる脳の場所を手術前に決めておき、定位手術装置を使ってその座標に向かって機器を正確に挿入する手法です。頭の骨を大きく開ける開頭術と違って小さな孔で済むため、患者さんの負担が少ないのが特徴です。
 当センターでは、定位的頭蓋内脳波検査 (SEEG) を2020 年から積極的に導入し、従来は記録が難しかった島回や海馬など、脳深部のてんかん診断に役立てています。また、ラジオ波 (高い周波数による電磁波) で発生する熱によって脳組織を約5mmの範囲で焼灼する“定位的温熱凝固術”を、てんかんの治療に応用しています。私たちは、島回の皮質形成障害による難治てんかんに対してこの方法が比較的安全に実施でき、治療成績が良好であることを報告しました。従来の開頭術では、島回だけを治療することは極めて難しかったため、現在ではとても重要な治療法となっています。


リファレンス

1. Iwasaki M, lijima K, Kawashima T, et al. Epilepsy surgery in children under 3 years of age: surgical and developmental outcomes. J Neurosurg Pediatr. (2021)28(4):395-403.
2. Takayama Y, Kimura Y, Iijima K, et al. Volume-Based Radiofrequency Thermocoagulation for Pediatric Insulo-Opercular Epilepsy: A Feasibility Study. Operative Neurosurgery. (2022)10.1227/ons.0000000000000294.

研究部紹介

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脳神経外科診療部 岩﨑 真樹 部長

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脳神経外科診療部の医師と手術部のスタッフ

【ホームページリンク】
NCNP病院 脳神経外科診療部
https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sd/noushinkei.html


▼NCNP内連携組織リンク


記事初出
「Annual Report 2021-2022」(2022年12月発行)
>広報誌