薬の効かないうつ病治療の選択肢を広げる ニューロモデュレーションセンター

薬の効かないうつ病治療の選択肢を広げる ニューロモデュレーションセンター

ニューロモデュレーションセンターでは、組織横断的な取り組みを通じ、
高度専門医療を提供しています。 さらに、基礎・臨床研究の推進、
この領域をリードする人材育成、 新規治療法や医療機器の開発、
診療に資するエビデンスの構築を目指しています。

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NCNP病院ニューロモデュレーションセンター

治療抵抗性うつ病の維持rTMS療法を開発する

 ニューロモデュレーション (以下NM) とは、電気や磁気などによって神経を刺激し、働きを調整 (モデュレート) することです。刺激方法、刺激部位によって多様な効果が期待できるため、様々な疾患、症状への治療法として世界中で研究開発が行われている領域です。
 精神疾患の分野で行われているNMとして代表的なのは TMS療法 (反復経頭蓋磁気刺激) です (図1)。rTMS療法は、非侵襲的に脳皮質を刺激する技術です。わが国でも、薬物療法が効かない治療抵抗性うつ病の治療選択肢として、最大6週間まで保険診療として実施できます。
 うつ病は再燃再発しやすい病気です。私たちはrTMS療法の維持期の有効性を検証するため、6週間のrTMS療法(= 急性期rTMS療法) から寛解に至った治療抵抗性うつ病の患者さんに対し、さらに12か月間のrTMS療法 (=維持rTMS療法)を行う予備的な研究を実施しました。その結果、維持 rTMS療法が再燃再発を防ぐために有用である可能性を報告しました。

TMS療法 (反復経頭蓋磁気刺激)の様子

図1:図内(A)トリートメントコイル内に電気を流すことで発生させた磁気により、脳内に渦電流を発生させ、神経を刺激します。脳に痛みは生じませんが、30%の患者さんでは皮膚を輪ゴムではじかれるくらいの痛みを感じます。体外から直接電気刺激を与えないため、体への負担が少なく、薬物治療に比べて副作用の少ない治療といえます。

先進医療技術の多施設共同研究を開始

 私たちは研究結果をもとに先進医療の申請を行い、2022年5月1日に12か月間の維持rTMS療法が先進医療の適用となりました。対象となるのは6週間の急性期 rTMS療法で寛解あるいは効果があった患者さんで、前半6か月間は週1日、後半6か月間は隔週に1日rTMS療法を行います。
 この先進医療による研究は、維持rTMS療法の保険収載を目標としています。研究対象者数は計300名で、世界的にも大規模な研究です。これを達成するため、当センターでは、多施設共同での医師主導臨床研究を推進しています。現在まで、国内10か所の医療機関が研究に参画しています (図2)。維持rTMS療法あり群150名、維持rTMS療法なし群150名で、12か月までの再燃再発率を比較し、先進医療技術の有効性を評価していきます。
 治療抵抗性うつ病の再燃再発を防ぐための維持療法の開発は、ニーズの大きい課題です。先進医療として患者さんに維持rTMS療法を提供するとともに、きちんと効果検証を行ったうえで維持rTMS療法の保険収載を目指します。
 ニューロモデュレーションセンターでは、組織横断的な取り組みを通じ、高度専門医療を提供しています。さらに、基礎・臨床研究の推進、この領域をリードする人材育成、新規治療法や医療機器の開発、診療に資するエビデンスの構築を目指しています。

先進医療 (mTMS-D) 実施医療機関の図

図2: 全国に広がる先進医療 (mTMS-D) 実施医療機関


リファレンス

  1. Matsuda Y, Sakuma K, Kishi T, Esaki K, Kito S, Shigeta M, Iwata N.Repetitive transcranial magnetic stimulation for preventing relapse in antidepressant treatment-resistant depression: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Brain Stimul (2023) 16: 458-461.
  2. Yamazaki R, Matsuda Y, Oba M, Oi H, Kito S. Maintenance repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS) therapy for treatment-resistant depression: A study protocol of a multisite, prospective, non-randomized longitudinal study. BMC psychiatry (2023) 23:437.

研究部紹介

ニューロモデュレーションセンター

https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sd/nmc.html

▼NCNP内連携組織リンク


記事初出
「Annual Report 2022-2023」(2023年12月発行)
>広報誌>Annual Report2022-2023

※職員の所属情報は2023年9月1日現在のものです